CASE
導入事例

"雑談"1on1を立て直し、部下の満足度や心理的安全性が大きく向上

東芝テック株式会社
中部支社長
田村 聖 氏
 
事業内容
東芝テックは、事務・情報機器や家電を製造する電機メーカー。POSシステムやバーコードシステム、デジタル複合機(MFP)、産業用インクジェットヘッドなどの企画・開発・製造・販売を手掛ける。POSシステムについては国内シェア50%を超えており、スーパーやコンビニ、飲食店など様々な業種に対応した製品がある。
企業規模
3,367名(2023年3月31日現在)
 

導入前の状況

  • 支社内の状況
    • 社員が安心して発言したり、新しいことに活発に取り組むような雰囲気ではなかった。
    • 若い社員が気軽に上司や先輩に相談できる雰囲気ではなかった。
  • 1on1ミーティングの状況
    • 全社導入されていたものの、数回程度でやらなくなってしまった人がほとんどだった。
    • 実施している場合でも、業務の打ち合わせや雑談であることが多かった。
    • 1on1の価値を感じている人は、上司側も部下側も少なかった。
 

導入サービス

  1on1実践トレーニング*

     *「1on1実践トレーニング」は(一社) 日本リレーショナルリーダーシップ協会(JRLA)の登録商標です。

 

導入後の効果

  • 支社内の状況
    • 自組織の、「関係の質」「思考の質」「行動の質」のスコアが向上した。
    • 特に若い社員が上司や先輩に相談しやすくなり、積極性が高まった。
  • 1on1ミーティングの状況
    • 1on1に対する部下(メンティ)の満足度が向上した(毎月4.2〜4.3点/5点満点で推移)。
    • 質の高い1on1を受けたことで、「自分も早くやる側になりたい」という中堅社員が増えた。
 
組織開発の一環として、1on1ミーティング(以下「1on1」)を導入する企業が増えており、特に社員数3,000名以上の大企業の約7割が、1on1を人事施策として導入していると言われています*。その一方で、「1on1本来の効果を得られていない」「変化が見られない」という声も上がりはじめ、取組みの見直しを図る企業も少なくありません。そのような企業で行われている1on1の実態を調べてみると、業務打合せの延長やただの雑談であったり、「上司が一方的に話しているだけ」などの声が多く聞かれます。

東芝テック株式会社では、社長号令のもと、2021年に1on1を全社的に導入しました。約2年が経過した中で、いくつかの課題が見つかり、現場では1on1の効果を高めるための取組みが行われています。

今回は、同社の中で積極的に1on1活動を推進されている、中部支社長の田村 聖氏にお話を伺いました。聞き手は、弊社代表理事の林 英利が担当し、田村氏の元上司であり組織開発コンサルタントの、同社元執行役員 松木 幹一郎氏(現 弊社参与)にもご同席いただきました。

* 出典:「1on1ミーティング導入の実態調査」リクルートマネジメント・ソリューションズ

1on1ミーティングは、業務打合せや雑談ではない。

1on1導入の経緯

林(JRLA):御社では、1on1はどのような経緯で導入されたのでしょうか?

田村様(東芝テック):全社的な導入という点では、2021年だったと思いますが、社長の号令の元に1on1をスタートすることになりました。私個人としては、2020年頃に松木さんから1on1を教えていただき、直感的に面白そうだと思いまして、前任地の支社で導入しました。

:松木さんは、どうして田村さんに1on1を紹介しようと思われたのでしょうか?

松木様:私自身も組織開発に取り組んできましたが、その中で最も有効な手法が1on1だと確信を持つようになっていました。田村さんは支社の責任者として組織開発に取り組まれていて、社員間の関係性づくりを大切にされていましたので、1on1を紹介しました。

▲ 同社の元執行役員の松木氏(写真左)は、2020年頃、社員間の関係性づくりを大切にする田村氏(写真右)に「1on1ミーティング」という手法を紹介した。

1on1導入後の課題

:1on1の取組み開始後、どのような課題があって、「1on1実践トレーニング」を導入しようと思われたのでしょうか?

田村様:前任地の支社では、松木さんのご指導の元、管理職向けの1on1研修と、管理職同士の1on1セッション練習会を複数回実施してから、実際の部下との1on1をスタートさせました。

スタートから半年くらい経ったところで、上司と部下の双方にアンケートをとったところ、成果としての手応えを感じた一方で、いくつかの課題も見つかりました。

その中の一つとして、多くの管理職が「自分の1on1スキルを高める必要がある」と感じていることが分かったことから、この「1on1実践トレーニング」を導入することに決めました。

:他の支社や中部支社では、どのように1on1に取り組まれていたのでしょうか?

田村様:他の支社では、本社が用意したビデオによる1on1研修を受けた後、練習期間は設けずに、部下との1on1をスタートすることが多いようで、1on1の内容は、業務の打合せであったり一般的な雑談であったりすることが多いと聞いています。

私は、前任地で「1on1実践トレーニング」をスタートした直後に、現在の中部支社に異動となりましたが、中部支社の管理職の人たちに、これまでどのような1on1を行っていたのかヒアリングしたところ、半分くらいの人は1on1をやったことはなく、残りの半分のほとんどは、数回やってやらなくなってしまったとのこと。また、一部の継続して行なっている人については、やはり、毎回の1on1が業務の打合せや雑談になっており、上司が一方的に話したり、上司が聞きたいことを部下に話させるような1on1になっていたとのことでした。忙しい中、1on1を継続する価値を感じられず、段々とやらなくなってしまった人が多かったようです。

また、当社は全国に7つの支社がありまして、私は中部支社で4つ目の勤務先になるのですが、この支社に着任したとき、これまで経験した4つの支社の中で、最も「心理的安全性」が低い支社だと感じました。

職場で、ワイワイと明るく話している様子はなく、活発に新しいことに取り組んでいる様子も見られない。どうやら以前からトップダウン型のマネジメントスタイルが定着していたようで、社員の間では、「こんなことを言ったら怒られるのではないか」とか、「失敗したら責任を取らされるのではないか」などと不安を感じていた人が多くいることが分かりました。

そこで私は、この支社を心理的安全性の高い組織にするために、いくつかの取り組みを始めました。その1つが、1on1のテコ入れであり、前任地で効果を実感した「1on1実践トレーニング」を導入することにしました。

子どもの自立・成長を望まない親はいない。会社もそうだ。

管理職への動機づけ

:中部支社で管理職向けのトレーニングをスタートさせるに当たって、どのようなことに留意されましたか?

田村様:大したことはしていませんが、「自分が先頭に立ってやらなきゃいけない」と思い、自分の直属の部長級の部下8名だけではなく、さらにその部下の人たちとの1on1も行っています。私自身、この半年間で120回以上の1on1を行っています。

あとは、「困っていることはないか?」と声がけをすることをしています。

:私がとても印象に残っているのは、取組み開始時に開催した管理職向けのキックオフミーティングの時に、田村さんが発信されたメッセージです。

メッセージの中で、この支社の心理的安全性が低いと感じられていることや、「子どもの自立・成長を望まない親はいない。会社もそうだ。」と熱く語られていましたね。管理職の皆さんに支社長の情熱が伝わったのではないかと感じました。

管理職の皆さんはお忙しいとは思いますが、「支社長がそこまで言うなら、もう一度、1on1に取り組んでみよう」と思った方が多かったのではないかと思います。

1on1の良さを知り"自分も上司のようになりたい"と思う部下が増えた。

トレーニング後の上司や部下の変化

:現在、中部支社では、3クール目の「1on1実践トレーニング」が進行中です。第1クールや第2クールでトレーニングを積まれた管理職の方々や、組織内の雰囲気などはどのように変化していますか?

田村様:まず、トレーニング終了時の管理職の人たちへのアンケートを見てみると、「はじめはめんどくさいことが始まったと思ったが、やってみて本当に良かった。」という声や、「仕事や関係性づくりに絶対に役立ちそうです。」という前向きな声がとても多かったことが印象的でした。

あとは、トレーニング後、実際の部下との1on1がスタートして、毎月のレポートを見てみると、部下(メンティ)の満足度は、5点満点で4.2〜4.3点と高水準で推移しているので、私も嬉しく思っています。

もう一つは、独自に集計している指標ですが、「組織の成功循環モデル(※)」の中の、「関係の質」や「思考の質」と「行動の質」のスコアもどんどん良くなってきていて、そちらの方でも手応えを感じています。

やっぱり、やっていることに間違いはない。どんどんと突き進んでいこう。そんな気持ちになりました。

あと、先日、次期課長候補者向けのオフサイト・ミーティングを実施したときに、彼らの1on1のメンターとしての活動は少し先ではありますが、そこにいた全員が、次のクールの「1on1実践トレーニング」の受講を希望したことには、驚きと同時に嬉しさを感じました。

:どうして、彼らはトレーニングを受けたいと思うようになったのでしょうか?

田村様:それは、彼らがメンティとして、質の高い1on1を継続的に受けていることがベースにあるからでしょう。

上司が半年間、トレーニングを受けていたことは彼らも知っていて、大変そうだと思ったかもしれませんが、でもその後に始まった1on1がとても良いものだと分かったので、「今度は自分ができるようになりたい」と思うようになったのだと思います。

1on1の価値を感じているからこそ、手を挙げてくれたのだと思います。

▲「質の高い1on1を受けるようになった部下たちが、"自分たちも1on1メンターになるためのトレーニングを受けたい" と言い始めている。」と語る田村氏。

1on1は部下が上司に安心して相談できる場でもある。

メンティの成長

:今回、トレーニングを修了した管理職からの1on1を受けている、ある部下の方にインタビューをさせていただきました。今の1on1をとても気に入られている様子でしたね。インタビュー動画をご覧になって、どのような感想をお持ちになりましたか?

田村様:まず、メンターもメンティも、しっかりした心構えを持って1on1をやってくれているなと感じましたし、嬉しかったですね。

彼はまだ新卒で入社して1年半ぐらいしか経っていませんが、しっかりしてきたなと感じています。彼の仕事に対する姿勢について、様々な場所で見たり聞いたりしますけど、成長していることを感じますね。

:インタビューの後半では、「この1on1のように組織の雰囲気が良くなる活動をもっと推進して欲しい」という発言もありました。若手として、もっと上司や先輩に相談しやすくなることをとても期待している様子でした。

田村様:多くの若い人からそのような声をよく聞きます。上司が忙しくしているので、若い人たちは上司に相談したり話しかけるタイミングをうかがっているんですよね。「いま話しかけたら迷惑になってしまわないか?」とか。

でも今は、上司とのメンティを主体とした1on1を定期的に行なっているので、遠慮なく色々な話ができているように思います。

:部下が上司に話や相談をしやすくなった点において、管理職の方々の反応はいかがでしょうか?

田村様:大変になったとか、面倒くさいと感じているということは、ほとんどないと思います。

逆に、「良いことも悪いことも早く分かるようになったので良かった」という声をよく聞きます。

:トレーニング終了時に、管理職の方々からは、「よしやるぞ!」という声が聞かれた一方で、「部下が前向きに取り組んでくれるだろうか?」という不安の声も多かったことから、「メンティ向け1on1受け方研修」を実施しました。

現在、とても良い形で1on1が進行しているようで、私も安心しました。

田村様:メンティ向けの教育はとても大事だと思っています。そして、リマインドのために継続的にそれを実施することも大切だと感じています。

1on1の効果を高めるには、メンティ側への教育も必要。

1on1に対する心構え

:田村さんは、部下をメンターにして1on1を受けることもあるそうですね。

田村様:そうなんです。「1on1実践トレーニング」を修了した部長クラスの部下との1on1のとき、私がメンティになり、部下に1on1メンターを担当してもらうことがあります。

もう3回以上やっているのですが、目からウロコが3枚も4枚も落ちるような1on1を体験しています。

なぜ、このような質の高い1on1ができるのかと考えてみると、メンティ側とメンター側の双方に1on1に対する心構えがしっかりとできているからではないかと思います。

メンティ側にも1on1に対する正しい知識や心構えがあるかないかでは、1on1の成果に大きな差が出るように思います。

ですので、メンティ側への1on1に関する教育をすることも、とても大切なことだと感じています。

能力開発の土台は人間力の開発。

組織における人材育成の優先度

:近年では「リスキリング」について取り上げられることが増えました。組織における1on1や1on1のトレーニングへの取組みについて、どのようにお考えですか?

田村様:人材育成を考える上では、土台に「人間力の開発」があり、その上に実務スキルなどの「仕事における能力開発」が乗るのだと思っています。

多くの組織では、上の方の「仕事における能力開発」に関する研修や教育は、体系化されていることが多いと思いますが、土台の方の「人間力の開発」や人格形成についての教育はあまり充実していないように思います。

もちろん、商品の提案の仕方などの実務的な教育も必要ですが、人間力を高める教育に時間とお金を投資することで、より大きなリターンが見込めるのではないかと思っています。

1on1や1on1のトレーニングへの取組みの本質は「人間力の開発」であり、上司部下の双方の人間力を同時に高めることができます。そうした人間性の向上により組織内の心理的安全性が改善され、社員の仕事への意欲や成果も高まっていくのだということを実感しています。

▲ 現在、松木氏は、組織開発コンサルタントとして、同社の組織開発や人材開発をサポートしている。

研修の費用対効果についての考え方

:多くの企業では、新たな取組みや研修などを導入する際に、費用対効果について検討する場合も多いと思います。その点はいかがでしょうか?

田村様:こうした取組みが、直接的に売上や利益にどのように貢献したかを測定するのは非常に難しいですが、先ほどお話ししたように、関係の質やメンティの満足度など、従業員エンゲージメントに関するスコアは良くなってきています。従業員エンゲージメントが向上すれば企業業績が向上することは、様々な研究成果などで示されているようです。

ちなみに、当支社においては、今年上半期の売上目標は達成しましたが、厳しい市場環境の中において、利益率の改善が今の課題です。

1on1導入・定着の要は、対象者の動機づけ。

1on1の導入・定着させるためのポイント

:今後、1on1を導入する企業に向けて、導入や定着の上で大切なポイントやアドバイスをいただけますでしょうか?

田村様:1on1本来の効果を得るためには、しっかりと時間をかけて、1on1メンターとなる管理職のスキルとマインドの両方を磨く必要があると思います。

必要な知識のインプットはもちろんですが、本物の1on1を体験させること、部下との本番の前に管理職同士で練習してみること、そして、フィードバックを行い改善していくこと。

部下の人たちに「1on1って良いものだ」と思ってもらい継続していくためには、そうした管理職側の事前の準備やトレーニングが必要です。

それから、そうしたトレーニングの「前」と「後」もとても大切だということが分かりました。

「前」については、対象者の管理職を集めて、この組織が何を目指しているのかや、現在の組織の課題などについて、複数回にわたり責任者が話す機会を設けることが大切だと思います。

例えば、私の今回の経験でいえば、他支社と比べて心理的安全性が低いと感じていること、一般社員の人たちからこんな意見が出ていること、他の支社と比べて損をしていることや、成長の機会を逃していること、家族のような組織にしたいことなどを伝え、「みんなで組織を良くしていこう」と何度も対話の場を持ちました。

「後」、つまり、本番のスタート直前では、管理職向けのフォローアップを行うだけではなく、部下(メンティ)向けの1on1の受け方や心構えに関する教育も重要です。

通常、トレーニングや研修の内容だけに意識が向きがちですが、この「前」と「後」の取組みもとても重要だと感じています。

全員参加で組織開発を。

組織・人材開発、今後の取組み

:今後、組織開発や人材開発に関する取組む予定のものがあれば、教えていただけますでしょうか?

田村様:先ほどお話ししたように、この支社に着任した時に感じた今後の課題の一つが「心理的安全性の改善」でした。

そこで、中部支社の全社員から様々な声を集め、『New Chubu. You Chubu. 〜 みんなで「創る」支社にしたい。「あなた」と「新しい未来」の為に〜』というスローガンを掲げ、組織開発の取組みを開始しました。このスローガンも社員から発案されたものです。

活動開始から約1年半が経ちますが、朝の挨拶すら交わさないような雰囲気だった社内は、今では明るくやる気に満ちた雰囲気に変わって来ています。

今後も、この1on1とオフサイトミーティングをベースにして、組織開発・人材開発の取組みである「New Chubu. You Chubu.」を進めていきます。

また、自分たちの手で組織の状態を把握・分析し、組織開発に活かしていく手法を導入準備中です。

私は来年9月に定年を迎える予定です。それまでの期間、営業的なことは副支社長に見てもらい、私は組織開発に力を入れて取り組んでいきたいと考えています。

私も一人の1on1メンターとして、楽しみながら取り組んでいきたいと思っています。

※ 組織の成功循環モデル:MIT元教授のダニエル・キム氏は、組織の結果の質を高めるためには、まず「関係の質」を高めるべきと提唱。関係の質が高まると、「思考の質」「行動の質」「結果の質」が順に高まり、さらに「関係の質」が高まることで好循環が生まれると提唱した。

▲ 写真左より、東芝テック株式会社 中部支社長 田村 聖氏、JRLA 代表 林 英利、JRLA 参与 松木 幹一郎氏
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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