“型”が人を変え、組織を変えた1on1浸透戦略|だいこう証券ビジネス

株式会社だいこう証券ビジネス 代表取締役社長 藤井 公房 氏
(研修プログラム推進責任者)

事業内容 | だいこう証券ビジネスは、野村総合研究所(NRI)グループの企業である。証券・金融業界に特化した高品質なアウトソーシングサービスを提供しており、証券バックオフィス業務、証券会社設立支援、金融商品取扱業務などを幅広く手掛ける。60年以上の実績を持ち、金融機関の業務効率化とDX推進を支援している。 | |
企業規模 | 661名(連結従業員数・2025年3月末現在) |
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はじめに
金融業界においてBPOとITを融合させ、業務品質と信頼性を強みとするだいこう証券ビジネス。同社では、グループ創業100 周年を迎える2057年も、社会から存在意義を認められる企業としてあり続けるために、これからの将来像を明確にする「DSB Group Vision 2057」を制定しています。そのビジョンを実現するために1on1ミーティングを経営的な重点施策として導入されました。
導入初期から役員自らがトレーニングに参加し、現場のマネジメントに1on1文化を根づかせてきた同社が、どのように1on1を活用し、どのような変化を組織にもたらしたのか。今回は、同社 代表取締役社長の藤井公房氏と、人材開発課長の中村雅樹氏に、その全体像と手応えについて伺いました。
変化の時代に“ビジョンでつながる”組織を目指して
──社長ご就任おめでとうございます。新たな経営の舵取りとして、今後どのような組織を目指しておられますか。
藤井社長:
ありがとうございます。私は、個人の強いビジョンで会社を導くというよりも、社員一人ひとりが会社のビジョンに共感し、自分自身のビジョンと重ねていけるような、そうした集合知のような組織を目指したいと思っています。
私は社会人としてのスタートを、ちょうどバブル期の終盤に迎えました。世界がグローバル化に向かっていく中で、日本の産業構造は急速に変化し、失われた10年、20年を経験しました。そんな中でも、金融機関は“黒子”として産業や経済を支える役割を果たしてきました。
しかし今、世界は再び分断の時代に入り、価値観や働き方も大きく変化しています。この変化の中で必要なのは、どんな風が吹こうとしなやかに踏みとどまれる“強さ”だと感じています。私は「疾風に勁草(けいそう)を知る」という言葉が好きで、社内でもよく使っています。強風の中でも折れない草のように、困難な状況でも信念を持って行動できる人と組織をつくりたいという思いがあります。
──その思いが、「DSB Group Vision 2057」の策定にもつながったのですね。
藤井社長:
はい。2022年にスタートしたこのプロジェクトでは、グループ会社も含めた30名(全体の約5%)が参加し、若手〜中堅を中心に議論を重ねました。背景には、当社のこれまでの変遷があります。もともとは証券の名義書換業務から始まった会社ですが、現在はBPOとITを融合した業態へと変わり、NRIグループの一員にもなっています。
その過程で、多様な出自のメンバーが共存するようになりました。だからこそ「この会社は何のためにあるのか」を自分たちで定義し、ビジョンを共通言語として持つことが重要だったのです。
ビジョン検討では、会社の社会的存在意義であるパーパス、DSBグループが持っている能力、これから備えるべき能力をコア・コンピタンス、会社の指針となる信条、信念である不変的なものをコア・バリュー、そしてビジョン達成のための大胆な目標をBHAGとして定めました。
2023年にこの「DSB Group Vision 2057」を正式に展開し、2024年からはその浸透と実践、そして人材育成へとステージを進めています。若手社員の中には、このビジョンに共感して入社してくれる方も増えています。今では9割近い社員が内容を理解し、“自分ごと”として語れるようになってきたという実感があります。

▲ 「疾風に勁草──変化の時代に折れない組織をつくりたい」と語る、藤井公房社長
1on1導入の背景──関係の質がすべての起点になる
──その組織変革の流れの中で、1on1の導入が始まったのですね。
藤井社長:
はい。「DSB Group Vision 2057」の議論を進める中で、現場のコミュニケーションにいくつかの課題が見えてきました。たとえば、BPO業務の現場では、派遣社員の方々や年上のメンバーと若手が一緒に働くことが多く、上下関係や役割認識のズレからコミュニケーションに齟齬が生まれがちでした。
特にトラブルが起きた際に、悪い情報が上に上がってこない、誰が責任を持つかが曖昧になる、といったことが繰り返されていました。こうした状態を変えるには、「関係の質」を改善しないと根本的な解決には至らないと感じました。
その打開策として、経営陣の中でも「1on1」が有効ではないかという声が高まり、私もその考えに賛同していました。ちょうどそのとき、経営幹部の一人が貴協会(JRLA)の「1on1実践トレーニング®」を知っていて、社内導入を提案してくれました。
──「まずやってみる」「ツールから入る」という導入方法もありますが、御社ではしっかりとスキルを高めてから本格展開されています。
藤井社長:
はい。実は導入前に、社内で役員4名が「DSB Group Vision 2057」のプロジェクトメンバー30名に対して1on1を実施する「To the Next Stage(TNS)」というプロジェクトを半年間展開しました。それぞれが自己流で1on1を試みたのですが、成果にばらつきが出てしまいました。
やはり、1on1を定着させるには「熱意」だけでは限界がある。スキルや型があってこそ、再現性が生まれると実感しました。そこで、より本格的に実践を浸透させる必要があると判断し、貴協会のトレーニングを採用させていただきました。

▲ インタビューに答える藤井社長(右から2番目)。聞き手はJRLA代表 林英利氏(写真左)
実感した“型”の力──変化を引き出すしくみとしてのトレーニング
──実践トレーニングには社長ご自身も参加されましたね。特に印象に残ったポイントはありますか?
藤井社長:
はい、トレーニングの一部を体験させていただきました。中でも強く印象に残っているのは、「グランドルールの読み上げ」と「最後の振り返りの確認」です。
形式的に思えるかもしれませんが、これを省略せず丁寧に行うことで、対話の場の“質”がまったく違ってきます。今でも私は1on1を行う際に、必ずこのルールに立ち戻って実施しています。
──参加された管理職の方々にも、さまざまな変化があったのではないでしょうか。
藤井社長:
はい。特に印象的だったのは「部下と仕事以外の話をする意味なんてあるのか?」と疑問を抱いていた管理職が、トレーニングを通じてその重要性に気づき、自身の関わり方を大きく変えていったことです。今ではその方のチームは非常に信頼関係が厚く、困ったことがあれば自然と上司に相談が集まる関係性ができています。
また、もともと「コミュニケーションが苦手」と感じていた人のほうが、実は1on1を定着させていく傾向が強いという発見もありました。得意な人は普段から自然に関係構築できてしまいますが、苦手な人ほど「型」が支えとなって行動が変わっていくのです。
1on1がもたらした“信頼と挑戦”の文化変容
──中村さんは、受講者の様子を間近でご覧になってきたと思います。どのような変化がありましたか?
中村課長:
まず、プロの外部メンター(BizMentor®︎)との1on1を体験すると、多くの方が「こんな会話が自分にできたら価値がある」と強く実感されます。また、管理職同士でのセッション練習も非常に有意義です。普段は業務上のやり取りにとどまりがちな同僚同士が、テーマを持って深い対話をすることで、お互いの考え方や背景への理解が深まり、職場の空気も変わっていきます。
トレーニング1期生の修了ミーティングでは、ある方がこんなエピソードを話してくれました。
「普段あまり協力的ではないと思っていた部下が、不平不満を口にしたとき、思わず“君はどうしたらいいと思う?”と問いかけていた。そんな言葉が自分の口から出たことにまず驚いたし、その問いかけに対して、部下が前向きなアイデアを出してくれたことにさらに驚いた」と。
こうした変化は、対話を通じて自分自身の思考や関わり方が変わっていくという、1on1の醍醐味だと感じています。

▲ 「1on1が、現場に信頼と対話の力を育てているのを実感」と語る、中村雅樹氏
“報告件数の増加”は、信頼関係が育った証拠だった
──現場での1on1の定着が進む中で、実際の業務や組織運営にどのような影響が出ていますか?
藤井社長:
面白いことに、1on1の取り組みが進むにつれて、トラブルの報告件数が増えました。最初は「これはまずい、品質が落ちているのでは」と思ったのですが、むしろ逆だったのです。
報告が増えたのは、現場に「言いやすい空気」ができたから。隠されていた小さな問題が早期に発見されるようになり、大きなトラブルに発展する前に対応できるようになってきました。
当社では「深掘り会議」という場を設けており、品質管理部を中心に、当事者やその上司が集まってトラブルの原因を掘り下げています。以前は“裁判”のような空気だったのが、今では担当者も率直に状況を共有し、他部署の管理職が前向きな意見を出し合うようになりました。横展開での再発防止も進んでいます。
これらの変化の背景には、1on1を通じて部長やグループ長、役員が現場にしっかり向き合い、問題発生時にも逃げずに解決に向けて動く姿勢を見せていることがあると感じています。
“未来に効く施策”を決断するのは、今この瞬間
──1on1を導入しようとしても「目の前の業務が忙しくて無理だ」という声もよく耳にします。
藤井社長:
おっしゃる通りです。どこの会社でも、緊急度の高い仕事が優先されがちです。でも、緊急度と重要度は別物です。
未来のために必要な人材育成や関係性づくりのような施策は、緊急性が低いように見えて、実は最も重要な投資です。だからこそ、経営層が「これはやる」と明確に決断することが必要です。
当社では、ビジョンを本気で実現するには“人と組織の強さ”が必要だと考えました。人口減少も進み、これからの10年が勝負です。優れた人材を採るのではなく、育てる仕組みを持たないと、生き残れないという危機感があります。
──最後に、今後の人材育成の展望と、1on1への期待をお聞かせください。
藤井社長:
私たちのBPO事業は、かつては紙を扱う“人の手の仕事”が中心でした。今後はITとAIを活用した新しい業態にシフトしなければなりません。
そのためには、社員一人ひとりが「今やっていることが正解とは限らない」と考え、常に自己変革できるような力を身につけていく必要があります。1on1はそのための“最もシンプルで本質的な装置”です。背景を理解し合い、本音で対話し、お互いを動機づける。それを上司と部下の関係の中で当たり前に行える組織が、きっと変化に強い会社になると信じています。
(聞き手:JRLA代表理事 林 英利)
取材後記:急がば回れの“本質的な組織変革”
藤井社長の「疾風に勁草を知る」という言葉が象徴するように、だいこう証券ビジネスの1on1導入は、時代の変化に応じた“柔らかく、しかし折れない組織づくり”の試みです。
「まずやってみる」でも「IT導入頼み」でもない。対話の型・目的・振り返りを丁寧に積み重ねながら、成果と信頼を育んできたこの実践例は、多くの企業にとってヒントとなるのではないでしょうか。
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。


東芝テック株式会社 中部支社長 田村 聖 氏
(研修プログラム推進責任者)

事業内容 | 東芝テックは、事務・情報機器や家電を製造する電機メーカー。POSシステムやバーコードシステム、デジタル複合機(MFP)、産業用インクジェットヘッドなどの企画・開発・製造・販売を手掛ける。POSシステムについては国内シェア50%を超えており、スーパーやコンビニ、飲食店など様々な業種に対応した製品がある。 |
企業規模 | 3,367名(2023年3月31日現在) |
導入前の課題 |
◎ 支社内の状況
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導入サービス |
導入後の効果 |
◎ 支社内の状況
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組織開発の一環として、1on1ミーティング(以下「1on1」)を導入する企業が増えており、特に社員数3,000名以上の大企業の約7割が、1on1を人事施策として導入していると言われています*。その一方で、「1on1本来の効果を得られていない」「変化が見られない」という声も上がりはじめ、取組みの見直しを図る企業も少なくありません。そのような企業で行われている1on1の実態を調べてみると、業務打合せの延長やただの雑談であったり、「上司が一方的に話しているだけ」などの声が多く聞かれます。
東芝テック株式会社では、社長号令のもと、2021年に1on1を全社的に導入しました。約2年が経過した中で、いくつかの課題が見つかり、現場では1on1の効果を高めるための取組みが行われています。
今回は、同社の中で積極的に1on1活動を推進されている、中部支社長の田村 聖氏にお話を伺いました。聞き手は、弊社代表理事の林 英利が担当し、田村氏の元上司であり組織開発コンサルタントの、同社元執行役員 松木 幹一郎氏(現 弊社参与)にもご同席いただきました。
* 出典:「1on1ミーティング導入の実態調査」リクルートマネジメント・ソリューションズ
1on1ミーティングは、業務打合せや雑談ではない。
1on1導入の経緯
林(JRLA):御社では、1on1はどのような経緯で導入されたのでしょうか?
田村様(東芝テック):全社的な導入という点では、2021年だったと思いますが、社長の号令の元に1on1をスタートすることになりました。私個人としては、2020年頃に松木さんから1on1を教えていただき、直感的に面白そうだと思いまして、前任地の支社で導入しました。
林:松木さんは、どうして田村さんに1on1を紹介しようと思われたのでしょうか?
松木様:私自身も組織開発に取り組んできましたが、その中で最も有効な手法が1on1だと確信を持つようになっていました。田村さんは支社の責任者として組織開発に取り組まれていて、社員間の関係性づくりを大切にされていましたので、1on1を紹介しました。

▲ 同社の元執行役員の松木氏(写真左)は、2020年頃、社員間の関係性づくりを大切にする田村氏(写真右)に「1on1ミーティング」という手法を紹介した。
1on1導入後の課題
林:1on1の取組み開始後、どのような課題があって、「1on1実践トレーニング」を導入しようと思われたのでしょうか?
田村様:前任地の支社では、松木さんのご指導の元、管理職向けの1on1研修と、管理職同士の1on1セッション練習会を複数回実施してから、実際の部下との1on1をスタートさせました。
スタートから半年くらい経ったところで、上司と部下の双方にアンケートをとったところ、成果としての手応えを感じた一方で、いくつかの課題も見つかりました。
その中の一つとして、多くの管理職が「自分の1on1スキルを高める必要がある」と感じていることが分かったことから、「1on1実践トレーニング®︎」を導入することに決めました。
林:他の支社や中部支社では、どのように1on1に取り組まれていたのでしょうか?
田村様:他の支社では、本社が用意したビデオによる1on1研修を受けた後、練習期間は設けずに、部下との1on1をスタートすることが多いようで、1on1の内容は、業務の打合せであったり一般的な雑談であったりすることが多いと聞いています。
私は、前任地で「1on1実践トレーニング」をスタートした直後に、現在の中部支社に異動となりましたが、中部支社の管理職の人たちに、これまでどのような1on1を行っていたのかヒアリングしたところ、半分くらいの人は1on1をやったことはなく、残りの半分のほとんどは、数回やってやらなくなってしまったとのこと。また、一部の継続して行なっている人については、やはり、毎回の1on1が業務の打合せや雑談になっており、上司が一方的に話したり、上司が聞きたいことを部下に話させるような1on1になっていたとのことでした。忙しい中、1on1を継続する価値を感じられず、段々とやらなくなってしまった人が多かったようです。
また、当社は全国に7つの支社がありまして、私は中部支社で4つ目の勤務先になるのですが、この支社に着任したとき、これまで経験した4つの支社の中で、最も「心理的安全性」が低い支社だと感じました。
職場で、ワイワイと明るく話している様子はなく、活発に新しいことに取り組んでいる様子も見られない。どうやら以前からトップダウン型のマネジメントスタイルが定着していたようで、社員の間では、「こんなことを言ったら怒られるのではないか」とか、「失敗したら責任を取らされるのではないか」などと不安を感じていた人が多くいることが分かりました。
そこで私は、この支社を心理的安全性の高い組織にするために、いくつかの取り組みを始めました。その1つが、1on1のテコ入れであり、前任地で効果を実感した「1on1実践トレーニング」を導入することにしました。
子どもの自立・成長を望まない親はいない。会社もそうだ。
管理職への動機づけ
林:中部支社で管理職向けのトレーニングをスタートさせるに当たって、どのようなことに留意されましたか?
田村様:大したことはしていませんが、「自分が先頭に立ってやらなきゃいけない」と思い、自分の直属の部長級の部下8名だけではなく、さらにその部下の人たちとの1on1も行っています。私自身、この半年間で120回以上の1on1を行っています。
あとは、「困っていることはないか?」と声がけをすることをしています。
林:私がとても印象に残っているのは、取組み開始時に開催した管理職向けのキックオフミーティングの時に、田村さんが発信されたメッセージです。
メッセージの中で、この支社の心理的安全性が低いと感じられていることや、「子どもの自立・成長を望まない親はいない。会社もそうだ。」と熱く語られていましたね。管理職の皆さんに支社長の情熱が伝わったのではないかと感じました。
管理職の皆さんはお忙しいとは思いますが、「支社長がそこまで言うなら、もう一度、1on1に取り組んでみよう」と思った方が多かったのではないかと思います。
1on1の良さを知り”自分も上司のようになりたい”と思う部下が増えた。
トレーニング後の上司や部下の変化
林:現在、中部支社では、3クール目の「1on1実践トレーニング」が進行中です。第1クールや第2クールでトレーニングを積まれた管理職の方々や、組織内の雰囲気などはどのように変化していますか?
田村様:まず、トレーニング終了時の管理職の人たちへのアンケートを見てみると、「はじめはめんどくさいことが始まったと思ったが、やってみて本当に良かった。」という声や、「仕事や関係性づくりに絶対に役立ちそうです。」という前向きな声がとても多かったことが印象的でした。
あとは、トレーニング後、実際の部下との1on1がスタートして、毎月のレポートを見てみると、部下(メンティ)の満足度は、5点満点で4.2〜4.3点と高水準で推移しているので、私も嬉しく思っています。
もう一つは、独自に集計している指標ですが、「組織の成功循環モデル(※)」の中の、「関係の質」や「思考の質」と「行動の質」のスコアもどんどん良くなってきていて、そちらの方でも手応えを感じています。
やっぱり、やっていることに間違いはない。どんどんと突き進んでいこう。そんな気持ちになりました。
あと、先日、次期課長候補者向けのオフサイト・ミーティングを実施したときに、彼らの1on1のメンターとしての活動は少し先ではありますが、そこにいた全員が、次のクールの「1on1実践トレーニング」の受講を希望したことには、驚きと同時に嬉しさを感じました。
林:どうして、彼らはトレーニングを受けたいと思うようになったのでしょうか?
田村様:それは、彼らがメンティとして、質の高い1on1を継続的に受けていることがベースにあるからでしょう。
上司が半年間、トレーニングを受けていたことは彼らも知っていて、大変そうだと思ったかもしれませんが、でもその後に始まった1on1がとても良いものだと分かったので、「今度は自分ができるようになりたい」と思うようになったのだと思います。
1on1の価値を感じているからこそ、手を挙げてくれたのだと思います。

▲「質の高い1on1を受けるようになった部下たちが、”自分たちも1on1メンターになるためのトレーニングを受けたい” と言い始めている。」と語る田村氏。
1on1は部下が上司に安心して相談できる場でもある。
メンティの成長
林:今回、トレーニングを修了した管理職からの1on1を受けている、ある部下の方にインタビューをさせていただきました。今の1on1をとても気に入られている様子でしたね。インタビュー動画をご覧になって、どのような感想をお持ちになりましたか?
田村様:まず、メンターもメンティも、しっかりした心構えを持って1on1をやってくれているなと感じましたし、嬉しかったですね。
彼はまだ新卒で入社して1年半ぐらいしか経っていませんが、しっかりしてきたなと感じています。彼の仕事に対する姿勢について、様々な場所で見たり聞いたりしますけど、成長していることを感じますね。
林:インタビューの後半では、「この1on1のように組織の雰囲気が良くなる活動をもっと推進して欲しい」という発言もありました。若手として、もっと上司や先輩に相談しやすくなることをとても期待している様子でした。
田村様:多くの若い人からそのような声をよく聞きます。上司が忙しくしているので、若い人たちは上司に相談したり話しかけるタイミングをうかがっているんですよね。「いま話しかけたら迷惑になってしまわないか?」とか。
でも今は、上司とのメンティを主体とした1on1を定期的に行なっているので、遠慮なく色々な話ができているように思います。
林:部下が上司に話や相談をしやすくなった点において、管理職の方々の反応はいかがでしょうか?
田村様:大変になったとか、面倒くさいと感じているということは、ほとんどないと思います。
逆に、「良いことも悪いことも早く分かるようになったので良かった」という声をよく聞きます。
林:トレーニング終了時に、管理職の方々からは、「よしやるぞ!」という声が聞かれた一方で、「部下が前向きに取り組んでくれるだろうか?」という不安の声も多かったことから、「メンティ向け1on1受け方研修」を実施しました。
現在、とても良い形で1on1が進行しているようで、私も安心しました。
田村様:メンティ向けの教育はとても大事だと思っています。そして、リマインドのために継続的にそれを実施することも大切だと感じています。
1on1の効果を高めるには、メンティ側への教育も必要。
1on1に対する心構え
林:田村さんは、部下をメンターにして1on1を受けることもあるそうですね。
田村様:そうなんです。「1on1実践トレーニング」を修了した部長クラスの部下との1on1のとき、私がメンティになり、部下に1on1メンターを担当してもらうことがあります。
もう3回以上やっているのですが、目からウロコが3枚も4枚も落ちるような1on1を体験しています。
なぜ、このような質の高い1on1ができるのかと考えてみると、メンティ側とメンター側の双方に1on1に対する心構えがしっかりとできているからではないかと思います。
メンティ側にも1on1に対する正しい知識や心構えがあるかないかでは、1on1の成果に大きな差が出るように思います。
ですので、メンティ側への1on1に関する教育をすることも、とても大切なことだと感じています。
能力開発の土台は人間力の開発。
組織における人材育成の優先度
林:近年では「リスキリング」について取り上げられることが増えました。組織における1on1や1on1のトレーニングへの取組みについて、どのようにお考えですか?
田村様:人材育成を考える上では、土台に「人間力の開発」があり、その上に実務スキルなどの「仕事における能力開発」が乗るのだと思っています。
多くの組織では、上の方の「仕事における能力開発」に関する研修や教育は、体系化されていることが多いと思いますが、土台の方の「人間力の開発」や人格形成についての教育はあまり充実していないように思います。
もちろん、商品の提案の仕方などの実務的な教育も必要ですが、人間力を高める教育に時間とお金を投資することで、より大きなリターンが見込めるのではないかと思っています。
1on1や1on1のトレーニングへの取組みの本質は「人間力の開発」であり、上司部下の双方の人間力を同時に高めることができます。そうした人間性の向上により組織内の心理的安全性が改善され、社員の仕事への意欲や成果も高まっていくのだということを実感しています。

▲ 現在、松木氏は、組織開発コンサルタントとして、同社の組織開発や人材開発をサポートしている。
研修の費用対効果についての考え方
林:多くの企業では、新たな取組みや研修などを導入する際に、費用対効果について検討する場合も多いと思います。その点はいかがでしょうか?
田村様:こうした取組みが、直接的に売上や利益にどのように貢献したかを測定するのは非常に難しいですが、先ほどお話ししたように、関係の質やメンティの満足度など、従業員エンゲージメントに関するスコアは良くなってきています。従業員エンゲージメントが向上すれば企業業績が向上することは、様々な研究成果などで示されているようです。
ちなみに、当支社においては、今年上半期の売上目標は達成しましたが、厳しい市場環境の中において、利益率の改善が今の課題です。
1on1導入・定着の要は、対象者の動機づけ。
1on1の導入・定着させるためのポイント
林:今後、1on1を導入する企業に向けて、導入や定着の上で大切なポイントやアドバイスをいただけますでしょうか?
田村様:1on1本来の効果を得るためには、しっかりと時間をかけて、1on1メンターとなる管理職のスキルとマインドの両方を磨く必要があると思います。
必要な知識のインプットはもちろんですが、本物の1on1を体験させること、部下との本番の前に管理職同士で練習してみること、そして、フィードバックを行い改善していくこと。
部下の人たちに「1on1って良いものだ」と思ってもらい継続していくためには、そうした管理職側の事前の準備やトレーニングが必要です。
それから、そうしたトレーニングの「前」と「後」もとても大切だということが分かりました。
「前」については、対象者の管理職を集めて、この組織が何を目指しているのかや、現在の組織の課題などについて、複数回にわたり責任者が話す機会を設けることが大切だと思います。
例えば、私の今回の経験でいえば、他支社と比べて心理的安全性が低いと感じていること、一般社員の人たちからこんな意見が出ていること、他の支社と比べて損をしていることや、成長の機会を逃していること、家族のような組織にしたいことなどを伝え、「みんなで組織を良くしていこう」と何度も対話の場を持ちました。
「後」、つまり、本番のスタート直前では、管理職向けのフォローアップを行うだけではなく、部下(メンティ)向けの1on1の受け方や心構えに関する教育も重要です。
通常、トレーニングや研修の内容だけに意識が向きがちですが、この「前」と「後」の取組みもとても重要だと感じています。
全員参加で組織開発を。
組織・人材開発、今後の取組み
林:今後、組織開発や人材開発に関する取組む予定のものがあれば、教えていただけますでしょうか?
田村様:先ほどお話ししたように、この支社に着任した時に感じた今後の課題の一つが「心理的安全性の改善」でした。
そこで、中部支社の全社員から様々な声を集め、『New Chubu. You Chubu. 〜 みんなで「創る」支社にしたい。「あなた」と「新しい未来」の為に〜』というスローガンを掲げ、組織開発の取組みを開始しました。このスローガンも社員から発案されたものです。
活動開始から約1年半が経ちますが、朝の挨拶すら交わさないような雰囲気だった社内は、今では明るくやる気に満ちた雰囲気に変わって来ています。
今後も、この1on1とオフサイトミーティングをベースにして、組織開発・人材開発の取組みである「New Chubu. You Chubu.」を進めていきます。
また、自分たちの手で組織の状態を把握・分析し、組織開発に活かしていく手法を導入準備中です。
私は来年9月に定年を迎える予定です。それまでの期間、営業的なことは副支社長に見てもらい、私は組織開発に力を入れて取り組んでいきたいと考えています。
私も一人の1on1メンターとして、楽しみながら取り組んでいきたいと思っています。
※ 組織の成功循環モデル:MIT元教授のダニエル・キム氏は、組織の結果の質を高めるためには、まず「関係の質」を高めるべきと提唱。関係の質が高まると、「思考の質」「行動の質」「結果の質」が順に高まり、さらに「関係の質」が高まることで好循環が生まれると提唱した。

▲ 写真左より、東芝テック株式会社 中部支社長 田村 聖氏、JRLA 代表 林 英利、JRLA 参与 松木 幹一郎氏
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。


NTTデータ株式会社 法人事業推進部 BPR推進室 川嶋 啓史 氏
(研修導入ご担当者 兼 研修メンバー)

事業内容 | NTTデータグループは、日本のシステムインテグレーター(SI)の先駆者として、情報システムの構築やネットワークシステムサービスを提供している。官公庁や自治体、金融機関、様々な業種の企業へ向けた、情報システムの構築を行なっているほか、世界50ヵ国以上でITサービスを提供。コンサルティングからシステムづくり、システムの運用に至るまで、さまざまなサービスを提供している。 |
企業規模 | 151,991名(2021年度 3月31日現在・海外グループを含む) |
導入前の課題 |
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導入サービス |
導入後の効果 |
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コロナ禍でリモートワークが導入され、上司・部下間のコミュニケーションの機会が減少した企業は多いのではないでしょうか。その結果、「指示待ち」の部下が増えたり、離職率が上がったりして、管理職の負荷が大幅に高まっている企業は少なくないようです。
今回は、弊社の「1on1実践トレーニング®︎」を導入され、このような問題の改善に取り組まれている、株式会社NTTデータ 法人事業推進部 BPR推進室 室長の川嶋啓史氏にお話を伺いました。聞き手は、(一社) 日本リレーショナルリーダーシップ協会(JRLA)の林 英利とパートナーコンサルタントの長岡美恵氏が担当しました。
忙しい上司と部下のコミュニケーション不足を解消したい
組織および事業の概要
林(JRLA):まずは、「1on1実践トレーニング®︎」(以下「当トレーニング」)を導入された、組織の事業内容をお聞かせください。
川嶋様(NTTデータ):ERP(Enterprise Resource Planning=企業資源計画)と言われている、様々な企業の統合基幹システムを導入する業務を行なっています。ERPを導入するための、上流のコンサルティングから、導入、そして導入後の保守メンテナンスまで、一連の全てを行なっている部署です。
案件数で言えば、7割がグローバル案件となっており、メンバーは国内外グループ会社やパートナー企業と連携して業務を遂行しています。

1on1ミーティングを導入した背景
林:全社的な方針で、今後、1on1ミーティング(以下「1on1」)を展開する動きがあるとのことですが、所属組織では、どのような経緯で1on1を導入することになったのでしょうか。
川嶋様:管理職が忙しすぎて、部下とのコミュニケーションが十分に取れておらず、それが直接的な原因ではないかもしれませんが、部下の離職も発生してしまっていて、上司・部下間のコミュニケーションを良くしていく必要があるとの話になりました。それは「飲み会で」という話もありますが、それとは別に、しっかりと部下と向き合っていかなければならないと思うようになっていました。
そういった、コミュニケーションを活性化しようということと、もう一つは、部下が「指示待ち」になっている状況が見受けられたので、それをいかに改善していくのか。検討の中で、解決の手段の一つとして「1on1が良いのではないか」ということになりました。
コロナ禍でリモート勤務となったこともあり、部下に細かく指示しなければならなくなっていて、管理職の稼働がすごく増えてしまった。それを改善する一歩として、部下が能動的に動けるようにする必要がある。それが一番の課題でした。
林:ご自身は、当トレーニングの前、チーム運営やスタッフ育成において、どのような課題や悩みなどがありましたか?
川嶋様:大きな悩みはありませんでしたが、コロナ禍でリモート業務になったことで、部下とタイミングが合わなくなって、阿吽の呼吸がなくなり、意思疎通が難しくなったと感じていました。
進捗MTGのような1on1では部下の「指示待ち」は変わらない
「1on1実践トレーニング®︎」で課題解決したかったこと
林:当トレーニングを導入する前は、組織の中で1on1は行われていたのでしょうか。
川嶋様:1on1をやってる人は、ほとんどいなかったですね。一部の人はやっていましたが、自己流のため業務の進捗会議のようになっていて、上司が一方的に話し、部下が分からないところを質問する、みたいなものだったと聞いています。そのような1on1では、コミュニケーションの活性化とか、部下が能動的になるような行動変容には繋がっていないと思いました。
導入時の工夫
林:今回の当トレーニングを導入するにあたって、導入ご担当者として、どのようなことに留意されたのでしょうか。
川嶋様:今回のトレーニングは、「やりたい」と手を挙げた人が参加する形で行うことにしましたが、たくさんの課題を抱える管理職の皆さんですので、「時間がないから」と断る人がほとんどだと思っていました。ですので、「断るのはもったいない」ということも含めて、導入の背景や目的、トレーニングに参加する皆さんにとって、どのようなメリットがあるのかなどを丁寧に説明するようにしました。それが無かったら、誰も参加しなかったと思います。
結果、私の予想よりも多く6名の管理職の方が手を挙げて、私を含めた7名でこのトレーニングをスタートすることになりました。

相手の内省と行動を促す1on1のスキル
トレーニング開始後の変化
林:ご自身も他の研修メンバーとともに当トレーニングを受けられましたが、1on1に対するイメージや印象はどのように変わりましたか?
川嶋様:トレーニング前は、そもそも1on1のことをよく分かっていなかったっというのが正直なところで(笑)、ざっくりと「お悩み相談」みたいなものなのかと思っていました。トレーニングを開始してみて、実際はそうではないということと、相手のやる気や考えを引き出して、その次の行動に繋げるためには、スキルがとても重要だということを実感しました。また、1on1をやればやるほど相手も慣れてくるので、コミュニケーションの透明性が高まることを感じたほか、相手がよく話してくれるようになったというのは、大きく変わった点だと思います。
林:「透明性が高まる」というのは、具体的にどのようなことでしょうか?
川嶋様:相手が本音を話してくれるようになったと思います。今までは、会話のキャッチボールが1往復で終わっていましたが、だんだんとそれが1往復から2往復以上になってくるし、話の内容も深くなりました。情報量が詰まった会話になったなと思いましたね。
林:当トレーニングで学習されたことや、習得されたスキルなどは、1on1以外の場面ではどのように生かされていますか?
川嶋様:例えば、社内で発表会があり、審査や評価をする立場になることがよくあります。発表者のプレゼンテーションを聞いて、講評する前には質問タイムがあるのですが、その時にトレーニングで学んだスキルを生かせています。自分が思ったことを一方的に話すのではなくて、「そのときはどう考えましたか?」とか、「経験から何を学べましたか?」など、1on1の質問のスキルを使うことで、プレゼンが終わった発表者は、「自分ではこうプレゼンしたけど、実はこう思っていたんだな」みたいに、内省を促したり、新たな気づきを引き出すことができるようになりました。自分の質問の仕方や内容の質が上がったと思いました。
林:相手の内省を促して気づきを引き出すという点で、1on1以外の場面でもスキルを活用されているということですね。
川嶋様:そうですね。あと、発表の内容が結構難しかったり、私の領域ではないものがほとんどなので、正直、具体的な内容が分からないプレゼンが多いんです。その中で、質問タイムで「質問してください」と言われても質問しにくかったのですが、1on1のスキルを使うことによって、先ほどの質問のように、質問の幅を広げることに非常に役立ちました。また、それを聞いている周りの講評者からも、「あの質問いいな」と後で言われたりしたこともあります。
「聴く」ことで信頼関係が醸成され、部下が能動的に変化
特に良かったこと
林:当トレーニングを受けられて、ご自身にとって特に良かったことは、どのようなことでしょうか?
川嶋様:特に良かったことは、メンティとの信頼関係がとても強くなったことだと思います。それまで関係が悪かったわけはありませんでしたが、このトレーニングを行ったことで、お互いをよく知ることができたことと、私が話をよく聞くようになったことで、相手も「聞いてくれるな」と感じるようになり、そこから強い信頼感が生まれてきたので、それが一番大きいですね。そのような関係が築けると、仕事上でこちらから言わなくても仕事を拾ってくれたりとか、部下が私をみて「忙しくて大変そうだな」と思ったときには、「それ、私がやります」というように能動的に拾ってくれるようになりました。部下の皆さんが自然にそのような形になって、皆さんのモチベーションも高まったのが一番大きいところですね。
林:冒頭のお話の中にもありましたが、上司の部下とのコミュニケーションが、「教える型」から「聴く型」に変化して、信頼関係が醸成され、部下の人たちが能動的に動くようになったということですね。
川嶋様:そうですね。そう感じました。
「これまで自分は話しすぎていた」と多くの管理職が気づく
研修メンバーの変化
林:他の研修メンバーの皆様にはどのような変化が見られましたか?
川嶋様:人にもよると思いますが、大きな変化の一つは、「自分がそんなに話さなくていいんだ」ということと、「自分は話しすぎていたな」と思った人がほとんどだったことです。今まで、自分の思いを一方的に伝えているだけで、相手に考えさせていなかった。ティーチングですよね。それだと部下は考えないし、「待ち」の状態のままだなと。研修メンバーの皆さんはそれに気づいたようです。それに気づいたことで、相手の話を引き出すスキルを、うまく活用しなければならないと。
あと、これは私もそうですけど、研修メンバー同士の1on1の練習のとき、練習相手と担当業務が違うので、相手の仕事内容の細かいことまでは分からないことが多いのですが、分からなくても1on1って進められるなと。この気づきについても、研修メンバーの皆さんから多く聞かれました。

練習と本物体験をしなければ、1on1のスキルは高められない
1on1ミーティングを導入・定着させるための大切なポイント
林:1on1を導入する企業は、今後ますます増えていくと思いますが、これから導入する企業に対して、1on1の導入や定着の上での大切なポイントについて、アドバイスをお願いします。
川嶋様:研修でスキルを学習することは大切なことですが、もっと大切なことは、1on1のセッション練習を行ったことでした。練習や経験を積むことで、自分なりの気づきが得られました。教科書の内容は表面的には理解していると思いますが、本当に理解しているかというと、研修を受けただけでは、理解したつもりになってるだけなんですよね。実際に1on1セッションをやってみると難しいですが、練習することで1on1の進め方が身についてきます。当たり前かもしれないですけれども、実践を積めば積むほど上手くなるのを実感します。本当にそこに尽きるな、と思っています。
林:スポーツなどと同じで、1on1スキルも、練習回数と上達度合いには比例関係がありそうです。
川嶋様:「近道はない」ということですね。最初の数回のセッション練習は、教科書を見ながらセッションを進めるのですが、進め方に気を取られて相手の話があまり入ってこないんですよね。「次に何を言おう?」って考えてしまうので(笑)それが、何回も練習すると、型が自然に分かってくるので、やっとそこで相手の話を聞けるようになりました。相手の話を理解した上で、「こういうことだよね」って本当の意味でのリフレインもできるようになりますし、「次の質問はこうして、次は…」というように進め方の道筋が30分の中で光がハッキリと見えてくるんですよね、「こうだな」と。こういうことは、何回もやってみないと見えてこない。それができるようになるには、やはり練習しかないなと。
あとは、プロのメンターの方から1on1を受けた経験ですね。メンティ側の立場に立つという意味でもそうですし、スキルを盗むということでも非常に重要かなと思っています。それは自分がメンター役で行う練習セッションの経験ではなかなか培えないところで、上達する秘訣として大きかったと思うので、セッション練習とセットでぜひやっていただくと良いと思います。
林:一つは複数回の1on1の練習をすること、もう一つはプロのメンターから1on1を受ける体験ですね。これが大切なポイントだと。
セッション練習回数について、「1on1実践トレーニング®︎」では、トレーニング期間中、標準で往復15回行うことになっていますが、今回は業務の都合で少し回数を減らして、往復9〜10回の練習セッションを行なっていただきました。トレーニングを終えられて、練習セッションの回数は、どのくらいが適量と思われますか?
川嶋様:個人的には、9回から10回が最低ラインかと思います。それより少ないと、たぶん、スキルが身につかないと思います。なので、最低でも10回はやるべきかと思いますね。中盤以降に学習する「経験学習モデル」とか「GROWモデル」になると、進め方が複雑になってくるので、トレーニング初期のセッション練習回数は少なめにしたとしても、中盤以降の「経験学習モデル」や「GROWモデル」のセッション練習回数は増やした方がいいですね。そしてトータルで、最低でも10回から12回程度のセッション練習を行うのが適量だと思います。
今後の組織開発・人材育成の取組み
林:今後、1on1を含めた組織開発や人材育成について、どのような取り組みをされる予定か、差し支えない範囲で教えていただければと思います。
川嶋様:引き続き、全管理職で1on1をやっていこうということと、パーパス経営の取り組みを行なっているので、部署全体で事業のパーパスを全員で考えて、その浸透活動を行なっています。そしてその後の「行動」ですね。行動指針については、会社全体で決まっているものはあるのですが、これを踏まえて一人ひとりが「自分はどう行動していくのか」を考えてもらい発表してもらう、といった取り組みも行なっています。
外部事業者に期待すること
林:今後、1on1の取組みの推進や定着させていくために、我々のような外部事業者に期待することをお聞かせください。
川嶋様:1on1セッション終了後の本音の評価です。1on1メンティである部下が上司の1on1を評価すると、自分が評価したと分かってしまうので、良い評価になってしまう可能性があります。忖度のない、本当のフィードバックと評価をプロのメンターを含む外部の方に行なってもらえるといいですね。直接的な内容はオブラートに包みながらも、改善のポイントを伝えることができると、本人の改善につながるのではないかと思います。
教えたくなる気持ちを抑えた1on1が、部下を能動的に変える
これから1on1ミーティングを行う管理職の方々へのメッセージ
林:では、最後になりますが、これから1on1を行う管理職の方などに向けて、実践していく上でのアドバイスをお願いします。
川嶋様:自身が上司という立場に立つので、指示命令や教えたい衝動に駆られることがありますが、最初はそこを抑え、相手に考えさせることが大切だと思います。時間はかかるかもしれませんが、最初はゆっくりスタートし、一度軌道に乗れば部下が自発的に行動し始めます。
教えたくなる気持ちをこらえて、まずは部下の話を聞き、彼ら自身が考えるようになることが重要です。部下が自分で考え、行動できるようになるまでには時間がかかりますが、ぜひその時間をかけて支援してください。絶対に後悔しないばかりか、部下が自発的に動くことで上司も楽になり、部下のモチベーションやエンゲージメントも高まります。時間が足りないと思わず、部下としっかり向き合っていただきたいと思います。
(おわり)

写真右より、株式会社 NTTデータ 法人事業推進部 BPR推進室 川嶋 啓史 氏、(一社) 日本リレーショナルリーダーシップ協会(JRLA) 代表理事 林 英利
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
