1on1の質を高める鍵は「ものさし」にあり──支援者育成で進める組織開発の取り組み|キヤノン株式会社
キヤノン株式会社 人事本部 人材・組織開発センター 組織開発支援部
福與 一美 様・広瀬 英樹 様

| 事業内容 | 1937 年にカメラメーカーとして創業したキヤノンは、カメラの開発で培った光学技術を軸に多角化を進め、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの4つの柱でグローバルに事業を展開しています。テクノロジーとイノベーションによって、豊かな暮らしとサステナブルな未来の実現をめざしています。 |
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| 企業規模 | 165,547名(連結従業員数・2025年12月末現在) |
| 導入前の課題 |
1. 組織開発の支援者間における1on1実践の共通認識の明確化 |
| 導入サービス |
1on1傾聴力向上と社内展開力育成プログラム |
| 導入後の効果 |
本プログラムを通じて、1on1支援における共通の「ものさし」が整備され、支援者同士の対話やフィードバックが行いやすくなった。また、プロによる評価や動画振り返りを通じて、自身の傾聴スタイルを客観的に見直す機会が生まれ、今後の実践に向けた意識の向上につながっている。
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はじめに
1on1ミーティングの導入や活用が広がる中で、「管理職ごとにやり方が異なる」「支援の質にばらつきがある」といった課題を感じている企業も少なくありません。
キヤノン株式会社では、組織開発支援・人材開発を担う社内の14名の支援者(組織開発支援者)に対し、1on1や傾聴スキルを体系的に高め、社内で展開できる人材を育成することを目的として、「1on1傾聴力向上と社内展開力育成プログラム」を導入しました。
本プログラムは、キヤノン株式会社のご要望をもとに、JRLAが内容を設計・開発したものであり、組織開発支援者自身のスキル向上と社内展開力の強化を両立させることを狙いとしています。
本記事では、本プログラムの導入を担当され、かつ受講者としても参加された組織開発支援部のお二人に、導入の背景や取り組みの狙い、実施を通じた気づきについて伺いました。
組織開発支援者にとって「聴くこと」は “一丁目1番地”
──まず、組織開発支援部の役割について教えてください。
広瀬さん:
人事本部の中に組織開発支援部があり、我々は主に、組織に関する課題を抱える部門に対して、ワークショップや研修、相談対応などを通じて支援を行っています。また、新任課長向け研修では講師や個別フォローアップのための1on1ミーティングも担当しています。
福與さん:
その中で私たちは「支援者」として活動しているのですが、やはり「話を聴く」ということは、すべての起点になるものだと考えています。いわば、支援を行う上での “一丁目1番地”ですね。
個々の経験に基づいて行われていた1on1支援。共通の視点を持つ必要性
──今回の取り組みに至った背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。
福與さん:
これまでも支援者それぞれが1on1や傾聴を実践してきましたが、どのように行っているかが支援者同士で共有されているわけではありませんでした。各自が学びながら実践している状況だったため、「今、自分たちはどのレベルにいるのか」を把握しづらいという面がありました。
また、課長向け研修の中で実施している1on1サポートについても、良い取り組みではあるものの、個々の進め方に委ねられている部分がありました。
──支援の質をより高めていくために、共通の視点が必要だったということですね。
福與さん:
はい。内部だけで評価するとどうしても主観的になりがちなので、外部のプロの視点で見ていただき、「ものさし」を揃えたいという思いがありました。

▲ インタビューに応える広瀬さん(写真左)と福與さん(写真中央)
選定の決め手は“柔軟な設計力”。自社に合わせたプログラム
──複数の提案の中で、今回のプログラムを選定いただいた理由を教えてください。
福與さん:
一番大きかったのは、こちらのやりたいことに対して柔軟に対応していただけた点です。既存のプログラムをそのまま提供するのではなく、私たちの話をしっかり聞いた上で、最適な形に設計していただけました。
広瀬さん:
他社のプログラムもそれぞれ特徴はありましたが、今回のように、プロメンターによる1on1体験や、実際のセッション動画を評価してもらうといった要素まで含めて、全体として設計されているものはあまり多くありませんでした。そういった点で「痒いところに手が届く」印象がありました。
「できているつもり」からの気づき。プロの視点と動画振り返りの価値
──実際にプログラムを受講されて、印象に残っている点は何でしょうか。
広瀬さん:
自分なりに「できているのではないか」と思っていた部分があったのですが、動画を撮ってプロの評価者に評価していただくことで、新たな気づきがありました。耳の痛いフィードバックもありましたが、「確かにそうだ」と受け止めることができたのは大きかったです。
福與さん:
私自身も、これまでのやり方にある種の固定観念があったことに気づきました。傾聴の中にもさまざまなアプローチがあることを学び、視野が広がったと感じています。
──動画での振り返りはいかがでしたか。
広瀬さん:
自分の1on1のセッションを客観的に見ると、想像以上に相槌が多かったり、こちらが主導してしまっている場面が見えてきました。普段は意識できていなかった点に気づけたのは大きかったです。
福與さん:
私は、テンポよく進めることを意識するあまり、相手が考える時間を十分に取れていなかったと感じました。沈黙を待つことの大切さを改めて実感しました。

▲「普段は意識できていなかった点に気づけたのは大きかった」と語る広瀬さん
共通の「ものさし」が生まれたことで、対話がしやすくなった
──今回の取り組みを通じて、支援者の皆さまの中で変化はありましたか。
福與さん:
「ものさし」ができたことは非常に大きいです。その基準に基づいてフィードバックができるようになり、支援者同士の対話もしやすくなりました。共通の理解があることで、受け取り方も変わってきたと感じています。

▲「『ものさし』ができたことは非常に大きい」と語る福與さん
今後の展開に向けて。支援者育成から組織全体へ
──今後の課題や展望について教えてください。
福與さん:
今回のプログラムを受けたメンバーは良いのですが、新しく加わるメンバーへの展開をどうしていくかは課題の一つです。せっかく整えた「ものさし」を維持し、広げていく必要があります。
広瀬さん:
今回得た知見をどのように社内に展開していくかもこれからのテーマです。1on1をどのように広げていくのか、今後検討していきたいと考えています。
1on1は組織開発の基盤。信頼関係を築くための重要な手段
──最後に、1on1や傾聴の位置づけについて、どのようにお考えですか。
福與さん:
1on1や傾聴は、組織開発の中でも基本となるものだと考えています。一対一でしっかり話を聴くことができるようになれば、それが組織全体の信頼関係の向上にもつながっていくのではないでしょうか。
広瀬さん:
相互理解を深め、信頼関係を築いていくための重要な手段の一つだと捉えています。その基盤となるスキルやマインドを、今後も大切にしていきたいですね。
(聞き手:JRLA代表理事 林 英利)
まとめ
キヤノン株式会社では、1on1や傾聴を単なるスキルとしてではなく、組織開発を支える重要な基盤として捉え、支援者や管理職の育成に取り組んでいます。
今回のプログラムを通じて得られた共通の「ものさし」や内省の機会は、今後の社内展開においても大きな基盤となっていくことが期待されます。
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。


株式会社山本山 代表取締役社長 山本 奈未 氏

| 事業内容 | 株式会社山本山は、1690年に創業したお茶と海苔を販売する老舗企業。江戸期には初めて煎茶を販売したほか、「狭山茶」の普及にも尽力し、六代目当主は「玉露」を発明するなど、お茶文化の普及に寄与。現在は全国から厳選したお茶と海苔を販売するだけでなく、お茶や海苔を使ったスイーツ商品なども企画・販売している。 |
| 導入前の課題 |
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| 導入サービス |
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| 導入後の効果 |
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従業員エンゲージメントを高めるために、1on1ミーティングを導入する企業は少なくありません。しかし、管理職の負荷が増えることや、上司と部下の相性、雑談になってしまうのではないかという懸念から、1on1ミーティング以外の方法で取組みを開始するケースもあります。
2023年に、創業333年を迎えた株式会社山本山は、新社長の就任とともに、エンゲージメント向上のための取組みを開始し、1on1ミーティングの導入の前段階として、「グループ・リフレクション」を導入することにしました。
グループリフレクション(Group Reflection)とは、グループ内のメンバーが共同で過去の経験や活動を振り返り、そのプロセスや結果について考察し、理解を深めることを指します。このプロセスは、グループのパフォーマンス向上、個々のメンバーの学習促進、およびグループ内のコミュニケーションや協力関係の強化に役立ちます。
山本山では、グループ・リフレクションのファシリテーターは、新社長を含む4名の役員がそれぞれ担当することになりました。2024年1月に、弊社の研修プログラムである、「グループ・リフレクション入門研修」と「グループ・リフレクション体験セッション」を役員向けに実施し、以降、社内では全社員を5名ずつのグループに分けて、グループ・リフレクションがスタートしています。
1回目のグループ・リフレクションが終了した時点で、弊社代表の林 英利が、山本奈未社長にインタビューを行いました。
社員とのランチミーティングで関係を深める
社長就任の直後に行ったこと
林(JRLA):2023年10月に日本法人の代表取締役社長にご就任されました。どのような組織にしたいとお考えですか?
山本様(山本山):実は、11年ぶりの日本への帰国となるので、社内の状況を詳しく把握する必要があると感じていました。組織は人によって成り立っているものですので、人を見ることから始め、その上で今後の方向性や戦略を考えるようにしました。
具体的には、気軽な気持ちで参加してもらいたかったので、複数人でのランチミーティング形式で行いました。一人一人から自己紹介をしていただき、これまでの経験や、好きなことなどを話してもらい、場が和んできたところで、仕事や会社についてどのように考えているのかなどを話してもらいました。
一人一人が、自分のことだけではなく会社のことも考えて、積極的に自分の意見を発言したり、行動できる環境にすることが大切だと思います。そして、一人一人が組織に貢献するだけではなく、会社としては社員が活躍し、働きがいを感じられるような場を提供することが大切だと思います。
林:役員の方同士でも定期的に食事会を開催しているとも伺いました。
山本:役員同士も相互理解を深めることが大切だと思います。日本にまだ「飲みニケーション」という言葉があるかはわかりませんが(笑)、月に1度、役員だけで社外で食事会を行なっています。
ホスト役は交代制とし、美味しさや値段でお店を選ぶのではなく(もちろん予算内で選びますが)、そのホスト役の思い出の場所やストーリーが語れる場所で開催しています。
林:以前、役員の皆さんとお話をした時に、とても雰囲気が良いと感じました。そのような食事会を通じて役員同士の関係が深まることは、従業員の方にも良い影響を与えそうですね。

グループ・リフレクションでエンゲージメントを高めたい
グループ・リフレクション導入の経緯
林:「グループ・リフレクション」を導入することになった経緯を教えて下さい。
山本様:社員へのインタビューを進める中で、問題と感じたのは、社員同士がお互いのことをあまり知らないということでした。
例えば、「社員同士において、お互いにフレンドリーには話してはいるものの、相手の仕事内容や、相手のことをよく知らないので、実は話しづらいと感じている」という声や、「お互いのことをもっとよく理解し合いたい」という声が多かったため、社員間のエンゲージメントを高める必要性を感じました。
社員間のエンゲージメントを高める方法について、担当役員の榎森と話し合っていたところ、「グループ・リフレクション」の導入を提案してくれたので、取り組むことになりました。
林:グループ・リフレクションの導入により、社員にどのような変化や反応が見られるでしょうか?
山本様:私が2週間ほどの海外出張に行っている間に、社内では、グループ・リフレクションの取組みがスタートしました。出張から戻り、オフィスに行ってみると、以前よりも社員同士でよく会話するように変化していると感じました。
グループ・リフレクションに参加した人たちへのアンケート結果をみると、8割の人がポジティブに捉えていることが分かりました。
アンケートでは、「”おはよう”を言いやすくなった」とか、「今日の○○はどうなったの? と気軽に声をかけられるようになった」など、社員同士のコミュニケーションが深まったと感じる人が多くいたほか、「今まで、会社内で自分のことを話す機会があまりなかったことに気づいた」という声もありました。
また、「ポジティブシャワー」というワークを行ったことについて、「恥ずかしい気持ちがありながらも、嬉しかった。ここまで褒められたことはない」という感想もあり、多くの人がグループ・リフレクションを楽しんでいることもわかりました。
とても良いことだと思っています。続けていくことが大事ですね。
グループリフレクション現在の課題
林:現時点におけるグループ・リフレクションに関する課題は何でしょうか?
山本様:今回のグループ・リフレクションは初回だったので、社員同士の相互理解を深めることを目的として行い、一定の効果が見られています。
今後、継続して定期的に開催していきますが、次のステップは、グループ・リフレクションを仕事に結びつけていく段階となります。テーマ設定や、使用するグループ・リフレクションの型(進め方)、グループメンバーの入れ替えなどについて、実務的な準備を進めています。
“飲み会”で得られていたことを業務時間内で
林:これから社員同士のコミュニケーションの量や質を高めようとする企業に対して、どのようなメッセージがありますか?
山本様:私は、昨年まで11年間に渡りアメリカで生活をしていました。久しぶりに日本に戻って感じているのは、社内でのコミュニケーションや”雑談”の時間、社員同士での仕事後の飲み会や食事会の機会が大きく減っていることです。
新型コロナウイルスの影響も大きいと思いますが、若い人たちの仕事や同僚に対する考え方の変化もあるかもしれません。仕事とプライベートの境界線をきっちりと引く人も増えていると聞いたことがあります。
社員間の相互理解と業務の円滑化の機会になっていた、以前のような“雑談”や、アフターファイブの食事会がなくなってきている以上、その機会を勤務時間内に設けなければなりません。そこは、マネジメントの決断にかかっています。
そうしたカジュアルなコミュニケーション機会を作り、社員のエンゲージメントを高めていく手段の1つが、グループ・リフレクションだと思います。
その一方で、社員のエンゲージメントや社内コミュニケーションの改善度合いを、何らかの指標で測定していく必要もあると思います。具体策とともに、評価方法も合わせて検討していきたいと思っています。
組織開発・人材育成部門は、社長直轄くらいの位置付けに
これからの組織開発・人材育成について
林:組織開発・人材育成に関するお考えをお聞かせください。また今後の取り組みを予定していれば教えてください。
山本様:まずは、グループ・リフレクションの活動を継続し、仕事に繋がる成果を出していきたいと考えています。
私は従業員のエンゲージメント向上やコミュニケーションを重視しています。これをスローガンのように使うのではなく、本当の意味でエンゲージメントを高めていかなければなりません。
そのためにも、エンゲージメントやコミュニケーションについて、言葉の意味を明確に定義して、どのような人物がコミュニケーション力が高く、エンゲージメントが高いのか。その理由を明確にすることが大切だと考えています。
アメリカの企業においては、「ヒューマン・リソーシーズ(HR)」や「ピープルマネジメント」という言葉をよく聞きます。日本においても、組織の発展を促し社員の動向を見極める部署として、HRに求められる役割が以前にも増して高度化・複雑化してきています。
当社でも人事部門を社長直轄にして、私が社内の課題をタイムリーに把握して、社員が前向きな気持ちと積極的な姿勢で仕事に取り組みながら、組織を活性化させられるようにしたいと考えています。
林:本日はお忙しい中大変ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

写真左より、株式会社山本山 榎森様、山本様、JRLA 林、株式会社山本山 吉田様
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。


