研修担当者の悩み「コーチングなんて」という社内の反対
悩ましい社内の抵抗
リーダーシップ開発において、「コーチング」や「1on1ミーティング」を導入する企業が増えています。私が利用するビジネスラウンジでも、毎日のようにこれらの言葉があちこちから聞こえてきます。
また、「コーチング」や「1on1ミーティング」をこれから導入しようとしている企業も多いことでしょう。しかし、導入の検討に当たって、社内の反対意見に悩まされている研修担当者も少なくないようです。
本当にコーチングは役立つのか?
実際、導入を検討している企業内の研修担当者からは、「ある役員がコーチングに懐疑的で…」とか、「現場の責任者から『(相手から引き出す)コーチングより、教えた方が早い』と言われ、手を焼いています…」との声も。
新しいことを導入しようとすると、このような反対意見や不安の声が一部から上がることは仕方がないこととは思いますが、研修担当者の方々は、「彼らにどのように説得したら良いか…」と日々悩まれているのではないでしょうか。
かく言う私も、管理職向けコーチング研修の際に、同じような質問をいただくことが多くあります。「教えるより、コーチングをした方が良いのでしょうか?」と。
文房具に例えてみると…
コーチングの必要性について議論される際、よく持ち出されるのが、「コーチング」と「ティーチング」の比較です。先ほどの例のように、「どちらの方が部下育成に適しているのか」という話になる場合がありますが、答えは「どちらも必要」と言えるでしょう。
これを文房具に例えてみると、もし「ハサミ」だけを持っている人が、「カッター」を手に入れることで、目的によってこれらを使い分けることができるようになります。そして、今まではやりにくかったことが簡単にできるようになる場合があります。ティーチングとコーチングについても同様で、使い分けることが大切なのです。
例えば、組織の方針や目標、マニュアルやルールなどの教育については、インプット型(ティーチング型)の教育が必要です。そして、その教育の後に、「では、●●さんだったらどのような工夫ができそうか?」とか、「●●さんらしさを付け加えるとすると、どんな方法がある?」、「次にもっと良い結果を得るには、どうするといい?」などと質問をすることで、考えさせたり、やる気を高めたりすることができるようになります(コーチング型)。
このように、「ティーチングとコーチング、どちらが良いのか?」ではなく、「業務の中でどのように使い分けると良いか?」と言う議論や検討を行うと良いでしょう。
コーチングや1on1ミーティングを定着させるには
先ほどは新たに導入するケースについての話をしましたが、既にコーチングを導入している企業では、「コーチング研修を実施しているのに、コーチングを活用している管理職はほとんどおらず、まったく定着していない」と言う声も少なくありません。なぜ、定着しないのでしょうか?
一つには、研修中に、業務の中でどのように使用するのかのイメージが描けていないことがあげられます。特に社外講師を呼んで研修を実施する場合、講師にビジネスや管理職の経験がなかったり、研修対象者の業務内容を把握できていなければ、研修は単なる「コーチングのスキルとは」のようなスキルにフォーカスした研修になってしまいます。研修で大切なのは、「どのようなビジネスシーンで」、「どのようにスキルが使えるのか」をしっかりと認識できるようになることです。
また、「分かる」だけではなく、しっかりと演習を行って、「できる」ようになるための指導を講師が行う必要があります。
次に重要なことは、研修の最後に研修で得たことを「いつからどのように活用するのか」などの具体的な行動目標を立てさせることと、それを宣言させることです。さらには、フォローアップ研修などを行い、「やってみてどうだったか」の振り返りの時間を設けることで、研修の効果を高めることができます。もし、フォローアップ研修の時間を設けることが難しければ、個別に振り返りの時間を設けてもらい、メールやWEBフォームなどから研修事務局に報告してもらう方法でも良いでしょう。
何事もそうですが、定着するまでには粘り強く継続させたり、リマインドさせる仕組みの構築がポイントとなります。
スキル以外で大切なこと
コーチングや1on1ミーティングで最も大切なことは、相手との間に信頼関係があることです。信頼関係がなければ、質問をしても、考えようとしなかったり、答えようとしなかったり、また、答えたとしても、本気ではない答えを話すかもしれません。そうならないためにも、相手が部下であっても人として尊重し大切に扱うこと、上司も約束をしっかりと守ることが大切です。
「カッター」などの刃物を扱うには、扱う人の「あり方」が問われます。「ケガ」をする人を発生させないためにも、スキルの習得と同時に「マインド」を養うことを忘れずに。