私は、住宅産業の会社に勤務しながら、コーチングを軸とする活動の他に、幾つかの社会活動に参加しています。

そのひとつとして、IT系NPOの運営委員としての活動があり、上場企業のCIO、情報システム部門の責任者の方のお話しを伺う機会に恵まれています。

そこで触れる事例紹介や経験談からは、技術的な側面よりは、寧ろ別の側面の様々な気づきを得ることができます。

優れたマネージャーは、同時にコミュニケーションの達人である

共通して言えることは、優れたマネージャーは、同時にコミュニケーションの達人であり、優れた人材育成の実践者であるということです。

クレディセゾン 常務 執行役員 ＣＴＯの小野 和俊さんも、そんな達人のおひとりです。夏場に「その仕事、全部やめてみよう」という書籍を出され、話題の人ですね。

これまで幾度かお話しを聴く機会はあり、最近もクローズドな研究会で、先の書籍を軸に、新たな話題を加えて披露いただきました。そのなかで印象的だったのが、ディベートに纏わるエピソード。

ディベートを経て得たマインドセット

小野さん曰く、

「ことある毎に感じることのひとつに『対立する立場にある相手について、全力で理解しようとする人は少ない』ということがある」

ディベートと言えば、私の認識は、議論で相手を打ち負かすテクニックというようなことでした。事実、ディベートで鍛えられたMB取得者は、身内の議論の場でも相手を打ち負かして持論を押し通し、主導権を握って意思決定に持ち込むことが珍しくないと聞きます。

ところが小野さんは、自分に与えられた立場の正当性を主張することに拘らず、寧ろ、反対の立場、許せない立場・意見に関して、徹底的に調査し本気で勉強した。

そうすることで、「どうしてその立場にあり、どうしてその主張に辿り着いたのか」を理解することができ、それを素直に認め相手に伝えることで建設的な議論が展開され、意気投合する仲に発展したのだとか。議論の勝ち負けではなく、事実と真実に拘ったと言えるでしょうか。

HRT

ディベートを信頼関係の構築に繋げる効用に変えることができた理由は、徹底的な調査と本気の勉強だけではなく、実はHRTの原則にあるのかも知れません。HRTって、小野さんが大事にしている信条のようです。

HRTの原則

• Humility　謙虚さ
• Respect　尊敬
• Trust 信頼　

今の職場にあっても、『どうせ自分達のことを否定、攻撃してくるのだろう』と警戒心、敵対心をもって待ち構えていたメンバーに対しても、土足で乗り込むようなことはせず、「教えてよ～っ」と笑顔で接し、本気のディベートを交わすことで、強力な信頼関係に変わり、圧倒的な成果に繋がったといいます。

「その仕事、全部やめてみよう」には、コーチングという言葉は一切出てきません。しかし、読んでいると随所にコーチングの要素が盛り込まれています。

徹底して鍛えたディベートで得たものは、テクニカルなスキルよりは、寧ろHRTをベースとするマインドだったのではないと思います。それは、コーチングの基本スキルやコーチングマインドに通じるものがあります。

実は、コミュニケーションの達人になることで、優れたマネージャーに

外資での経験、アメリカでの起業経験を通して得た実践知が、企業風土の異なる日本企業の経営者としても発揮された分けで、それが、私にはコーチングを軸とする視点で、腑に落ちる理解に繋がります。

冒頭に「優れたマネージャーは、同時にコミュニケーションの達人である」と記しました。しかし、実は、単にコミュニケーションが上手いということではなく、反対の立場を取る相手さえも、肝胆相照らす仲間となり、行動変容を起こして成果に繋げたほどのコミュニケーションの達人だから、優れたマネージャー、経営者として活躍しているということでしょう。

優れたマネージャーを目指している皆さんも、身近にロールモデルと言える優れたマネージャーがいらっしゃるとしたら、業務知識、業務遂行能力、あるいは業務成績という点だけではなく、寧ろ、コミュニケーションのあり方、部下へのフォローのあり方にこそ、学ぶべきことがありそうです。