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振り返ってみて、今だから言える「上司の心得」(その2)

会社員現役の最中では見えなかったものが、時間が経った今だから見えてくる。立場が異なると見える光景が変わることも多い。

私のサラリーマン時代の興味深い経験を、「論語」の成句と共に振り返ります。


常にノートを持参

「何となくだけど、新しい会社の方がいいかな?」と、直感で決めてしまった就職先。役員面接にまで呼ばれた老舗上場企業を断り、当時は未だ無名の米国系IT企業へ入社した私は、入社後の毎日が違和感の連続だった。

社会人一年目の「洗礼」も数多く経験したが、びっくりさせられたのは上司や先輩社員たちの行動だった。

「砂村、ノートを忘れているぞ! 何回注意されたら分るんだ?」

先輩や上司から教えや指示を受ける際には、自分のノートを必ず持参することを強く命ぜられた。

周りを見回すと、確かに先輩社員たちは皆、ノートを片手に職場内を行き来している。

「一度しか指示しないからな! 教えてもらった事柄はちゃんとノートにメモしておくこと。」

これが上司の口癖だった。

上司の指示で参加した事業部全体の会議で更に驚いたのは、事業部長やその上司の統括役員までもノートを持って会議に臨んでいる姿だった。

そして私はその後、同僚との会議やプロジェクトに参加する時も含めて、常にノートを持参することを肝に銘じることにした。

30年以上経過して今思い返してみると「指示されたこと、習ったことはきちんと記憶に留めておくこと」が徹底されていた。

つまり「周りの人は皆、わが師」ということを実践していたのかも知れない。


部下に教えを乞う上司

会社生活に大分慣れた入社3年目くらいの頃、再度ビックリする光景に出くわす。直属の上司が米国出張でオフィスに出勤していない時だった。

上司の上司、つまり統括役員がふらっと我々の職場を訪れた。姿は入社式で目にしたことはあったが、目近にするのは初めて。威厳というか存在感のある「頑固おやじ」という風貌だった。

職場に心なしか凍り付いた雰囲気が漂う。


「砂村、お前はどんな仕事を担当しているんだ?」


小言を言われるのは嫌だな、と目が合わないようにしていた。しかし、あっという間にこちらに近づいてきて、私の前の席の椅子をぐっと掴んでどんと座り、おもむろに問いかけてきた。


「えー、あのー、いや在庫管理の仕事を担当しています。」


入社3年目のペーペー社員に、何故このお偉いさんは仕事について尋ねるのか? 海外出張中の課長に代わって働きぶりをチェックに来たのか? 私はこの時間が速く終わるのを心から願った。

すると、


「おー、在庫管理の仕事か! それは大変な仕事だな。帳簿と現物が合っていないからな!」

「え? はい、帳簿差異が発生して困っているんです!」


私は思わず役員の目を見て反応した。組織上では相当上位の人なのに帳簿と現物が合わない、という担当者レベルの実務的課題をきちんと理解している。

会社のお偉いさんだけど、口から出まかせでは納得しそうにないな、とも直感した。しかし次の瞬間、信じられない言葉を耳にした。


「それで砂村、教えて欲しいことがあるんだけど…」


教えて欲しいことがあるんだけど…


「は?、はい、何でしょうか?」


入社3年目の私が統括役員へ教えられることなんて何があるというのか? 何を尋ねられるのかと身を固くして返答を待った。すると鋭い眼差しを私に向けながら、


「砂村、お前は入社以来この仕事を担当していると聞いている。ということは3年間この分野に関わってきたプロだ。そこで教えて欲しいことがある。これまでうちの会社ではどれくらいの在庫を抱えていて、どれくらいの帳簿差異を計上していたのか? そして、どれくらいの差異なら許容範囲なのか?それで差異を許容範囲に抑えるためには我々は何をすれば良いのか?それを教えてくれ!」


足早に去っていく後ろ姿を見送りながら私は、統括役員の真剣な眼差しの奥に「任せたぞ!」というメッセージを感じた。

そして机の引出しから慌てて、過去の財務データを引っ張り出した


論語からの引用

論語に、「下問に恥じず」という成句がある。これは、「目下の者に質問することを恥じない」という意味である。

上司は、部下を管理・指導するという役割を与えられてはいるが、「学び、成長していくことを目指す」という点においては部下と何ら変わりない。

だから知らないことを恥ずかしがらずに素直に、「教えて欲しい」と頭を下げる。部下も、知ったかぶりをする上司よりは、学ぶ姿勢を持ち続ける上司の方を尊敬するはずだ。

一方、部下の視点に立つと、この姿勢は上司の関心事や課題感を垣間見る機会にもなる。また上司からの質問に答えることで、自尊心や仕事に対する自信が醸成される。

これは与えられた仕事を自らの課題にする、つまり「自分事」化させることに繋がり、仕事に自発的に取り組むマインドを促進すると考えられる。


まとめ

組織の上位へ上がれば上がる程、現場や市場で何が起きているかが見えずらくなる。

上司が必ずしも最適解を知っているとは限らない。むしろ顧客や技術の変化を目の当たりにしている現場の社員の方がよく知っているはずだ。

上司は部下に自分の持つ正答を伝える役割を担っているのではない。部下に正答を探させる環境を整備し、働きかけをするのが役目である。

そのために部下へすることは指示ではなく「問い掛け」である。部下に教えを乞うことは決して恥ずかしいことではない。


( 砂村 義雄 メンターの詳細プロフィールはこちら )

砂村 義雄
砂村 義雄
上智大学経済学部卒。外資系大手企業などで財務経理本部長などを歴任し独立。 経営者を対象としたエグゼクティブ・コーチング、及び企業向けにコーチングとコンサルティングを掛け合わせた「協業型コンサルティング」を提供。また「1on1ミーティング」導入支援や管理職研修を通じて、組織開発・企業風土改革のプロジェクトを展開中。名古屋商科大学大学院 経営学修士(MBA)取得

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