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振り返ってみて、今だから言える「上司の心得」(その3)

真っ只中にいるときには見えなかったものが、時間が経った今だから見えてくる。

思い返しみてあらためて気付くこと、そして、真摯に反省すべき点も少なくない。

私のサラリーマン時代の「苦い」経験を、論語の成句と共に振り返ります。

( 登場する人物の名前は変えています。)


部下への異動辞令―上司としての決断

「4月1日付けで、君たち二人には担当業務を交換してもらう

それぞれの意向は既に聞いてあるが、これが上司としての私の決断である。

少し苦労をかけるが、長い目で見れば、二人にとっても我が経理チーム全体にとっても、良い効果をもたらすと信じている。

頑張ってやってくれ!」


私は経理部全体を統括する経理課長。

財務会計リーダー職の湯本と、管理会計リーダー職の佐藤の職務を交換するという異動辞令を、二人の女性部下に伝えた。


上司は猛反対だったが……

「砂村、それは難しいんじゃないか?

今回の内示について、その二人は何と言っているの?」


私の上司、経理本部長の庄田は最初から後ろ向きだった。


「二人はそれぞれ、色々と言っています。

しかし、二人とも今の職務を5年以上担当しており、マンネリ化しています。

業務内容だけではありません。考え方が保守的になり、新しいことに挑戦したり、工夫したりすることを回避しているように見受けられます。

二人の能力開発やキャリア構築のためにも、是非、実施したいです。」


庄田はさらに表情を硬くしてこう続けた。


「いや、職場のリーダーである二人を、一気に交代させるのことには無理がある。

経理全体の業務を止めることになりかねない。それは本部長として困る。

それから、既に君に伝えてある通り、私の定年退職後、君には私の後継者として経理本部を率いてもらうつもりだ。

今回の決断が自分自身を苦しめることになるぞ。」


半ば脅しだった。



部下を信じた自分は正しかったのか、それとも期待しすぎたのか?

経験のない人間に、社長への財務報告を任せられるのか?


庄田から矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

本部長の懸念や心配は分かる。しかし、私はこの5年間、佐藤・湯本の両人とひざを突き合わせ、同じチームで働いてきた関係だ。

スキル面・メンタル面ともに、それぞれの強み・弱みを含め、個性を熟知しているつもりだ。

その上で、二人にはそれぞれ、キャリア構築の観点で、今回の異動をチャンスと捉えて苦手分野をぜひ克服して欲しい。それが私の想いだった。

これまで管理会計だけを担当してきた「一匹狼」的な佐藤は、部下管理の経験が殆どない。

人づきあいが得意ではなく、人使いが苦手なことは本人も自覚している。今回の異動を通じて自分の殻を打ち破り、苦手意識を乗り越えたいと言っている。私はその意気込みに賭けたのだ。

上司の庄田や社長が、「佐藤には人事管理は無理」と評していることは承知しているが、それは彼らが佐藤をそういう目で見ているからに他ならない。私がサポートすれば何とかなる…。

一方の湯本は、逆に財務会計歴が長く、また周りを上手く巻き込む職務を得意とするが、分析やプロセスの深掘りの経験に乏しい。

「財務会計と管理会計は経理の両輪」と日頃から諭されてきた湯本は、「砂村さんが言うなら、頑張ってやってみます」と私からの提案を受け入れている。

私としては、上司や社長、人事部など、他部署の人間が何と言おうと、自分の信じて進めたいと思った。


論語からの引用

論語に、「衆(しゅう)これを悪(にく)むも必ず察し、衆これを好むも必ず察す」という成句がある。

世間一般の人が、ある特定の人を悪く言ったとしても、鵜呑みにしてはいけない。

必ず自分で調べ、自分で判断しなければいけない。

また、もし世間一般の人が、ある特定の人を良く言ったとしても、鵜呑みにしてはいけない。

必ず自分で判断しなければいけない。

孔子が残した言葉からも分かるように、孔子が育てたいと思っていたのは、「自分で考え、自分で判断できる人間」である。

そして私が最も重視したのは、本人の「心意気」と「やる気」である。

いくら周りが言っても、本人がその気にならなければ物事は前に進まない。

自らの気持ち、内発的動機に私は賭けたのだった。


まとめ

「久しぶり、どうしてる? 元気にやっているかい?」


3年ぶりに私は湯本と会った。

彼女たちを異動させてからの2年間は、上司として最大限のサポートを行った。

その後事情があり会社を去った私だが、彼女たちの異動後の2年間は、二人ともそれぞれ苦労しながらも努力して、私の期待に応えようとしてくれたように見えた。


「お蔭様で元気にやっていますよ!」

「そうか、それは良かった! それで今、仕事はどう?」


湯本の表情が少しくぐもった。


「砂村さんが退職されてしばらくして、実は佐藤さんと再度、仕事をスイッチしました。つまり私は財務会計へ戻り、そして佐藤さんは管理会計へ…。」


( やはり、難しかったのか!)

私は二人に少し申し訳ない気がした。

それを感じ取ったのか湯本は、


「でも、あの異動のお陰で色々なことを学びました。そして砂村さんが口癖のように言っていた『財務会計と管理会計は経理の両輪』の意味がやっと分かりました。」


リーダーは周囲の助言に耳を傾け、また様々なソースから情報収集することが重要である。

しかし同時に、他人の言うことに盲従したり、むやみに左右されることなく、自分自身の判断に基づいて決断することが求められる。


( 砂村 義雄 メンターの詳細プロフィールはこちら )

砂村 義雄
砂村 義雄
上智大学経済学部卒。外資系大手企業などで財務経理本部長などを歴任し独立。 経営者を対象としたエグゼクティブ・コーチング、及び企業向けにコーチングとコンサルティングを掛け合わせた「協業型コンサルティング」を提供。また「1on1ミーティング」導入支援や管理職研修を通じて、組織開発・企業風土改革のプロジェクトを展開中。名古屋商科大学大学院 経営学修士(MBA)取得

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