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あなたのことを見ています

父の急逝に伴い私が事業を引き継いだ時、 会社には90名ほどの正社員と300名以上のアルバイトがいました。

正社員は、ほぼ全員がいわゆる板前で皆私より年上ばかり。

若いころからの板場の修行で苦労を重ねてきた板前とのコミュニケーションは本当に難しいものがありました。

そんな板前社員たちとの関係作りに試行錯誤していく中で、 私は相手を認めることで少しずつ心の距離を縮めていったのです。


BE、DO、HAVE

相手を認める、承認する方法として良く言われるのが存在承認、行動承認、結果承認です。 BE、DO、HAVEと言われることもあります。

HAVE結果承認は実績など成し遂げたことについての承認。 DO行動承認はプロセスとしての行動についての承認、 そして相手の存在そのものを承認するBE存在承認です。

経営者になったばかりの私ははじめ結果承認を中心に社員に向き合いました。 とにかく結果を出した人を褒めるということです。

しかし海千山千の板前にこれはあまり通用しませんでした。 「上手くおだてて都合が良いように利用しようとしているんだろう」 と勘繰られる始末でした。

望ましい結果を出した時に褒めて認めることはもちろん大事ですが、 いわば条件付きの承認は素直には受け入れてもらえないケースも多かったように思います。

次に私はできるだけプロセスを認めるように心掛けました。 結果に関わらず望ましい行動を確認したときに、 「やってくれたんだね。有難う」 と認めて感謝することです。 これはかなり効果がありました。

重要なポイントは、 具体的な行動の事実に注目してそれを認める事でした。 無理に褒めようとして事実ではないことを言うとすぐに見抜かれてしまいました。


あなたのことを見ています

そんな中で板前たちの心に一番届いたのは、 「あなたのことを見ています」 というメッセージでした。

結果を褒めるのでもなく、行動を承認するのでもなく、 ただその人の存在をみとめていくことです。

必ずこちらから挨拶をして一声をかける、名前を呼ぶ。 単純なことですが、これらを繰り返していくうちに徐々に心の距離が狭まっていった気がします。

ここから私は少しずつ個々の社員に関心をもちはじめました。 ある社員の身内が亡くなり葬儀に出席することになりました。

その頃のウチの社員は身内がいなかったり、 親族と音信不通だったりする人が多く 社員の身内の葬儀に出席するのは初めてのことでした。

普段は寡黙でほとんど会話もなかった社員でしたが、 葬儀の時に親戚の人達が彼の人柄や生い立ちなどについて私に色々と話をしてくれました。単なる気難しい一人の板前と思っていた彼の人生にも様々な出来事やドラマがあったのです。

その時にはじめて私はその社員を一人の人間として理解したいと思うようになりました。 そしてその葬儀をきっかけにその社員と私の距離は急速に近くなりました。

葬儀の時に親戚の方々から教えてもらった彼のエピソードに基づき、 色々な会話ができるようになったからです。

「あなたの親父さんは大工さんだったよね」、「中学では野球部で活躍したらしいね」 とことあるごとに話をしていくことで、 「私はあなたを知っています、見ています」 というメッセージを投げかけ、それが関係を強化させていったのです。


心の距離を縮める個人ファイル

この経験に基づき、私は全社員の個人ファイルを作成しました。 そのファイルには、履歴書や健康診断結果はもとより、その他の様々な情報を蓄積していきました。

顔を合わせて話をしたときに得た情報をメモにしておき、そこにどんどん入れていくのです。

「俺は高校の時にサッカー部でゴールキーパーだったんです」、 「前の職場ではふぐの調理をやっていたんです」、 様々な内容をメモにして入れておきます。

そして時間のあるときにそのファイルを時々見直して、 次にまた顔を合わせた時に、 「そういえば君は高校の時にサッカー部だったよね」 などと折に触れてそのメモの内容を伝えるということを継続していきました。

社員の反応は様々でしたが、 「そうなんですよ。覚えていてくれたのですね」と 嬉しそうにする人が多いようでした。

個々の社員に関心を持ち、そのことを 「あなたのことを知っています、見ています」 というメッセージとして伝えることは、 斜に構えていたりいじけてしまっている板前たちの心を少しずつですが 確実に開いていきました。

褒める事も大事ですが、それ以前に相手の存在を繰り返し認めていくことが本当に大切だと思います。


まとめ

家庭の事情で郷里に戻らなくてはならず退職することになった一人の社員が最後にぽつりと言ったことが忘れられません。

「自分の親以外で、俺の事を一番良く知っているのは社長です」 この言葉は私にとって嬉しいものでした。

今でも社員とは様々な問題が起こります。 それでも相手に関心をもって、存在を認め続けることで必ず心は通じると私は信じています。

湯澤 剛
湯澤 剛
大学卒業後、1987年キリンビール社に入社。国内ビール営業、ニューヨーク留学、海外事業担当を経て、1999年飲食店チェーン経営者であった実父の急逝に伴い事業を承継。年商20億、負債40億の会社をボロボロになりながら16年かけて再生、負債も全額返済。現在は、飲食店経営と並行して中小企業経営者向けの講演を全国で行い、コーチングを活用した経営者向け個別相談も実施している。趣味・特技:空手初段

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