口の重い社員の心を開くヒーローインタビュー
私は毎月一度各社員と30分間の個別ミーティングを行っています。
店舗で働く社員とは店での立ち話程度のコミュニケーションしか取れずにいたので、何とか毎月30分だけでも時間を取ってしっかりと話を聞くようにしています。
この30分は、業務報告や指示ではなく あくまでも社員の成長のための1on1ミーティングとして位置付け 私はほぼ聞き役に徹しています。
始めたころは身構えていた社員たちも、何を言っても否定はされないということが分かってくると徐々に自由に積極的に話をしてくれるようになっていきました。
寡黙なベテラン板前
そんな中で、とにかく口の重い東北出身の50代の板前がいました。
何を聞いても「自分は大丈夫です」、「特にないです」とほとんど話をしてくれないのです。
決して反抗したりひねくれているわけではなく勤務態度は至ってまじめで、会社への帰属意識も高い人です。
ただとにかく寡黙なのでコミュニケーション不足から周りの社員との小さな問題は度々発生していました。
そんなこともあったので私はとにかく彼の話を聞いて心を開いてもらうおうと意気込んで個人面談を始めたのです。
しかしとにかく口数が少ない。
手を変え品を変え色々な面で聞くのですがさっぱり乗ってこないのです。
趣味は無いし、休みは疲れて寝ているだけ、独身で家族もいない。
故郷の話もあまり話したがらない。
まさに一問一答、それも答えは極めて短い。
そのうちに私は、徐々に彼との個人面談が気が重くなっていきました。
ヒーローインタビュー
どうすれば彼が話をしてくれるかと考えていた時に、コミュニケーション手法の一つである「ヒーローインタビュー」を思い出しました。
ヒーローインタビューとは端的に言えばその名の通りで、大きな目標を達成したとか、高い壁を乗り越えたなど 相手にとって誇りに思えることを取り上げて、スポーツのヒーローインタビューの如く聞ていくものです。
上手くいくと、相手は活き活きと語り始め、止まらなくなるほどです。
私はMさんとの個別面談で早速ヒーローインタビューを使いました。
いつも通りの短い一問一答のあとに「Mさん、これまでで一番本当に頑張った、やり遂げたと思える経験を教えてくれるか?」と切り出すとはじめは「特にないっす」などと言っていましたが、ぽつりと「そういえば以前勤務していた店で1日に500万を売り上げた事がありました。あれは本当に大変でした」と口にしました。
店の大きさによりますが、1日に500万の売上というのは驚異的です。
本当に驚いた私はまさにヒーローインタビューの如く次々に質問していきました。
はじめはぽつりぽつりと答えていたさんでしたが、いつの間にかこれまでに見たことがない饒舌さで当時の事を話し始めました。
強みを引き出す
「その日は、GWで観光バスが何台も連続でやってきたんです」、「私は調理場のNO2で、その時は揚げ場を担当していたので、1日中天ぷらを揚げ続けていました」、「火傷だらけになったのですが、夢中で痛さも感じませんでした」などとMさんはありありと状況を語りつづけました。
しばらくMさんの話を聞いてから私が「そんなに大変な状況でもやりとげられたのは、Mさんのどんなところが役にたったんだろう?」と問いかけると、少し戸惑いながらも「自分は大したことはできないが昔から我慢強いとはよく言われるんです」と自分の強みを口だしてくれました。
そこからはこれまでMさんの我慢強さがどんな時に役にたってきたか、今の職場でどのように活用していくかなどとMさんの強みにフォーカスしていきました。
自分の事を話をするのが嫌がっていたMさんも強みを口に出すことで 自信を深めていったように思います。
今でもあまり話さないMさんですが、それでも以前よりははるかに自分のことを開示してくれるようになりました。
まとめ
自分が誇りに思っていることを聞かれると嬉しくなって、重い口を開き始めるということを今回のMさんの事例から学びました。
相手の経験に本当に関心にもって聴くことで話はじめた相手は口を開き、そして心を開いてくれます。
大切なのは、相手のエピソードに興味をもって質問をすること。
ヒーローインタビューのように聴き手と話し手の双方が、まさに乗ってくるような進め方が大事です。
そしてそこから相手の強みを引き出すことで、相手が強みを自覚し、自信につながっていきます。
なかなか心を開かない相手に対してヒーローインタビューは本当に有効です。
ぜひ一度お試し下さい。