「心理的安全性」と「ぬるま湯組織」
皆さんは、「心理的安全性」という言葉から何をイメージされますか?
何となく理解されている方は多いと思いますが、具体的にどういうことなのか、また、その目的は何であるのかを説明できますか?
「心理的安全性」とは何か?
エイミー・C・エドモンドソン教授は、「チームが機能するとはどういうことか」という本の中で、次のように述べています。
心理的安全とは関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気を指す。
「無知(ignorant)、無能(incompetent)、否定的(negative)、邪魔(intrusive)だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」という「信念」(belief)
心理的安全性に対する誤解
心理的安全性という言葉は、なんとなく心地いい響きがします。
心理的安全性という言葉からイメージされるのは居心地の良さ、優しさ、温かさといったことでしょうか。
実際に、組織のメンバーに具体的なイメージを確認すると「言いたいことが言える」「みんなが親身に話を聞いてくれる」「自分の意見に理解を示してくれる」「提案が通る」といったことになります。
マネージャーに確認しても、パワハラに対する厳しい見方も相まってか、同様の答えが少なくありません。
しかし、こうしたイメージは、必ずしも心理的安全性に対する正しい認識とは言えません。
むしろ、誤解を大いに含んでいると思います。
心理的安全性の本当の意味
エイミー・C・エドモンドソン教授は、「恐れのない組織」という本の中で、次のように述べています。
心理的安全性は感じよく振る舞うこととは関係がない、心理的に安全な環境で仕事をすることは、感じよくあるために誰もがいつも相手の意見に賛成することではない。
あなたが言いたいと思うあらゆることに対して、明らかな賞賛や無条件の支持を得られるわけでもない。
むしろその正反対だと言ってもいい。
心理的安全性は率直であるということであり、建設的に反対したり、気兼ねなく考えを交換しあったりできるということなのだ。
これなくして学習もイノベーションもありえないのは言うまでもない。
どんな職場でも対立は必ず起きる。
ただ心理的安全性があれば、異なる意見を持つ人同士が、どんなところに納得がいかないかを率直に話せるようになるのだ。
いかがでしょうか、必ずしも常に居心地の良い状態とは言えないのではないのではないでしょうか。
心理的安全性を高める目的
心理的安全性を高める目的は、居心地がいい職場を作ることではありません。
言葉のイメージからそのようなことを想像してしまうかもしれませんが、これは大きな間違いと言っても言い過ぎではありません。
ではなぜ、心理的安全性を高める必要があるのでしょうか?
それは、組織のパフォーマンスを高めるためです。この目的を外してはなりません。
「恐れのない組織」という本の中では、組織の状態を心理的安全性と業績基準の関連性において、4つのゾーンに分類しています。
心理的安全性が高い/業績基準が高い:学習および高パフォーマンスゾーン
心理的安全性が高い/業績基準が低い:快適ゾーン
心理的安全性が低い/業績基準が高い:不安ゾーン
心理的安全性が低い/業績基準が低い:無気力ゾーン
ここに書かれている快適ゾーンが、対立や意見の衝突を避けて言いたいことを言わない、いわゆる「ぬるま湯組織」です。
皆さんの組織はどうでしょうか、いつの間にかぬるま湯組織になっていませんか?
まとめ
組織には多様な人材が集まっています。
そうした一人ひとりの強みや多様性を活かして、どうやって組織として成果を上げていくか、野心的な目標を設定しその目標に向かって協働するということにおいて、心理的安全性が重要になります。
大切なことは、「心理的安全性をつくる」ことは手段であって目的ではない、ということです。
真の目的とは、「学習して成長する組織をつくる」ということ、メンバー同士が健全に意見を戦わせ、野心的な目標を設定しその目標に向かって、生産的でよい仕事をすることに力を注げる組織を作ることにあるのです。