心に留めたい一言:「あるべき姿」から「ありたい姿」へ
様々な方々との対話やセッションを通じて、私は有難いことに、多くのことを気付かされています。
このシリーズでは、その中から心に留めたい一言をご紹介し、我々の学びとして共有したいと思います。
なおセッション内容には「守秘義務」がありますので、主旨が伝わる範囲で編集しています。
肩に力が入っている
「役員へのご就任、おめでとうございます!」
で始まったMさんとのコーチング・セッション。
「いやー、まさか自分が? とは感じました。これまでそれなりの成果は出していたという自負はありますが、やはりこの年齢じゃ、まだまだとも思っていました。」
Mさんはそう言いつつも、満更でも無いご様子。
「前任者との引継ぎはぼちぼち進んでいますが、色々やるべきことが見えてきて!」
オンライン画面の向こうで、意気揚々と腕まくりをしているような雰囲気が伝わってきた。
「他の役員とも話をすべきだし、部下たちとの1on1ミーティングをもっと活性化すべきだとも考えています。」
この後はMさんから、これまでの業績や苦労話をお聞きするとともに、今抱えている課題を先ずは言語化してもらうことにした。
抱えている課題を次々と言葉にしながら、同時にMさんは解決策も色々と披露してくれた。
「さすがだな!」
前途は明るいと私は心の中で感じる一方、Mさん一人だけの「前のめり感」が気になった。
部下たちの視点
2週間後のセッションは、開口一番Mさんが、「色々、やるべきことが山積していてね!」と苦笑するところから始まった。
「そうですよね、やりたいことが沢山あるでしょうね!」
私は状況に共感しつつ、Mさんの次の言葉を待った。
「うちの部下たちはみんな優秀なんだけど、私の戦略や施策、今年度の目標などをどこまで理解してくれているのか?」
少し声のトーンが下がった気がした。
「何がそう感じさせるのですか?」
と私は深掘りを促す。
「明らかにやるべきことをやっていないと分かっているはずなのに、着手していないことを指摘しても、何か反応が鈍い。商品開発だって、顧客目線の洞察が弱いので、なかなか市場から受け入れられていないことは明確なはず。それなのに『なぜ、やらないのか?』という問い掛けに答えられる奴は一人もいない。」
私は言葉を継いで
「なるほど。一方、そういう部下の方たちは、就任したてのM取締役を、どのように見ているのでしょうか?」
Mさんは少し沈黙した後で、こう小さく呟いた。
「ささやかな期待とやっぱりか!の現実かな?」
そう言い残すとMさんは、昔のことが頭によぎったのか再度押し黙った。
そして、
「私が課長だった15年くらい前、直属上司の部長がこぼしていたのを思い出した。新任役員に付き合うのは大変だと。当時の私には意味が理解できなかったが。」
そして言葉を続けた。
「部下の視点に立ってみて少し分かった。これまで色々努力してきたけど、出来ていない点や至らない点、欠点ばかりを言われては、頭では理解しても前に進めないんだな。」
何が人を動かすのか?
私は視点を変えて問い掛けた。
「Mさんご自身は、ご自分の使う言葉をどう感じていますか?」
きょとんとした表情を返したMさん。
「言葉ですか?」
「はい、前回に引き続いて今回もお話をお聞きしていて、気が付いたのですが、Mさんは『べき』という表現を頻繁に使っていらっしゃいます。やるべき仕事、話をすべき、活性化すべき、など。いかがですか?」
「えー、はい、そうかも知れません。」
私は続けて、
「上司である社長から、もし『これをこうすべき』とMさんが言われたら、どう感じると思いますか?」
Mさんの表情がみるみる変わるのが見て取れた。そして「うーむ」と小さくうなった。
「そうだったんだ!『あるべき姿』を押し付けてもダメなんだ。目標を掲げても、部下たちはそれを自分事に捉えないと達成意欲が湧かない。あるべきではなく『ありたい姿』が大切なんだ!」
セッションは続く。
「なるほど! それではMさんの『ありたい姿』はどういうものですか?」
Mさんの表情が心なしか明るくなった。
「どうせ仕事をするのだったら、楽しくやりたい」
少しずつテンポが速くなってきた。
「Mさんご自身は楽しくやりたいのですね!一方、部下の方々はどうなのでしょうか?皆さんの『ありたい姿』はどういうものですか?」
まとめ
- 職場や仕事だと「やるべき」や「すべき」などの「業務処理モード」に陥りがちである。
- そういう上司の姿を、部下はどのように見ているのでしょうか?
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目標やビジョン達成に向かい、「ありたい姿」を実現しようと前進し続ける上司に、部下は惹かれるのではないでしょうか?
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そして上司と同様、部下たちにも「ありたい姿」が必ずあるはず。それらに先ずは耳を傾ける上司でありたいです。
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