導入ブームの「1on1ミーティング」を再考する(最終回、第三弾):部下・社員編
元々は米国企業の人事施策の一つである「1on1ミーティング」。
導入を検討する日本企業が着実に増えてきています。
これを一種のブームで終わらせないために、私の導入及び定着支援の経験も交えながら、基本的な考え方や心構えをお伝えしています。
そのシリーズ最終回の第三弾、部下・社員の視点に立ってみます。
米国本社から、いきなりこんなEメールが来た!
以前、米国系IT企業の日本法人に勤務していた頃、管理職全員宛に突然メールが届いた。
その要旨を簡単にまとめると以下の通り。
「職場の部下が会社を去る理由を、あなたは知っていますか?それは会社の業績が悪いからではありません。貰っている給与に不満があるからでもありません。一番の理由はあなた、上司が理由であることが多いのです。従って自分の周りの部下たちの姿をよく観察すること。彼ら・彼女らの仕事やキャリア上の要望やニーズは何なのか?それに活かせる彼ら・彼女らの強み・得意分野は何か?これはとてもシンプルだが、あなたの最も大切な責務です。」
確かこのような趣旨だったように記憶している。
昇進・昇格や昇給などを貪欲に追い求める社員が、ひしめき合って働いている印象が強い米国系IT企業でも、職場を去る理由の筆頭が「上司」だ、という警告のメールなのです。
当時の私は数人の部下を抱える管理職でしたが、一方、私も上司に仕える部下の一人として、このメールに強く共感したことを覚えています。
1on1ミーティングは「誰が主役」なのか
上記のような企業文化の米国で、日常茶飯事に行われている「1on1ミーティング」が、最近は日本国内でも行われるようになりましたが、改めて「誰が主役」なのでしょうか?
このブログシリーズの第一弾と第二弾で触れてきたように、会社が導入する人事施策の一つとして、上司である管理職のスキルや心構えに焦点が当たりがちではあります。
しかしその主役は紛れもなく「部下」です。
主役ということは中心人物、スポットライトを浴びる人。従って、多少のアドリブや自分勝手も許されます。
一方、この人事施策の効果を最大化するためには、当事者である部下への期待も大きく、そして責任も伴います。
では「1on1ミーティング」で部下の側が果たす責任とは何でしょうか?
それは取りも直さず、その時間を最大限活かそうとする心構えや姿勢です。
「会社の制度だから」とか「上司がやるって言うから仕方なく」では、その責任は果たせません。
実際に私の経験、及び私が「1on1ミーティング」の導入支援をしたクライアントに話を伺うと、部下側のやる気や主体性がその巧拙を大きく左右すると感じる、という声が多く寄せられます。
上司・管理職などのリーダーだけが頑張って対応しても、人間関係やコミュニケーションは相互作用で成立するもの。
お互いが「パートナー」であるという認識で運用しようという意識を持たなければ、残念ながら期待通りには効果が出ないものです。
部下・社員の心構えや姿勢
では「主役」である部下の心構えとはどういうものでしょうか?いくつか挙げてみます。
(1)部下自身が「自分が主役」と認識する
「1on1ミーティング」を導入する、と聞くと「また仕事が増える」と感じる部下もいるかも知れません。
確かに会社の施策として上司から言われればそう感じることもあるでしょう。
しかし、これまで何度か繰り返しお伝えしているように、「1on1ミーティング」は誰のために実施するかと言えば、部下のためです。
従って、部下が先ずは「自分自身が主役である」と心することがとても重要です。
部下自身にこの「腹落ち感」や「覚悟」が必要です。
上司が何とかリードしてくれる、という他力本願の考えは捨てること、つまり「主体的」になる、ということです。
自ら課題を見つけ、その課題解決に「1on1ミーティング」という場を使う、と捉えたいです。
(2)上司という「リソース」を活用するという発想を持つ
では「主体的になる」ということを、もう少し具体的に考えてみましょう。
「1on1ミーティング」で部下が主体的になってその時間を活用するということは、取りも直さず上司という「リソース」を最大限活用する、ということです。
上司は大抵の場合、人生の先輩です。
同じ職種かどうかは別として、経験値は部下より多いはず。
また上司が年下であったとしても、社内やその業界、職種において秀でたものを持っているからこそ、管理職の任に就いているはず。その人から色々なものを吸収したいです。
その際、成功体験はもちろんですが、ぜひ「失敗談」や「苦い経験」を是非聞き出して欲しいと思います。
この部分に「人としての上司像」を垣間見ることが出来るものです。
そしてよく言われるように、失敗談から学ぶことは多いです。
失敗談を多く語れる上司は総じて、人として素晴らしい方が多いと感じます。
なぜなら通常は、人は自分のネガティブな面を口に出したくないからです。
それを敢えて部下に話すことが出来る度量。これに触れる機会なのです。
そして、この失敗談を部下に語ることができるのは、その失敗をその後で何らかの形で現在に活かしているからに他なりません。これが「経験学習」です。
従って目の前の他人、成長を期待する部下だからこそ伝えることが出来るのです。
(3) キャリア構築を「自分ごと」と考える
会社の名声や規模ではない。給料の多寡でもない。そして仕事の内容でもない。
「上司」や「周りの仲間」が尊敬できるか、協業できるか、相性が良いかどうかである。
つまり「1on1ミーティング」という機会が、自分自身のキャリアプランを考えることに繋がるのです。
今の会社で、職場で、仕事を続けるべきか、他社でチャンスを見出すか?
その一つの判断材料になるのが、「1on1ミーティング」の場かも知れません。
自ら課題を見つけ、目標を設定し、「1on1ミーティング」で得られる気付きや上司の知見を上手く活用しながら、ゴール達成のために日々努力を重ねる。
「天は自ら助くる者を助く」のような面持ちで「1on1ミーティング」を活用すれば、大きな収穫が得られることは間違いないと考えます。
まとめ・教訓
このブログシリーズ最終回の今回は「1on1ミーティング」を、部下・社員の視点で考えてみました。
環境を整備し提供するのは会社や上司の役割ではありますが、それをどのように活用するかは、究極的には部下や社員次第です。
今は変化が激しく先が読めないVUCAの現代。
職場で命じられた業務を、言われた通り遂行さえすれば自ずとキャリアアップ出来る時代ではなくなりました。
一方それは、自らが主体的に取り組むことで、自らのキャリアを開拓し、構築できる世の中になってきているとも言えます。
自己実現を図る手段として仕事を、そして会社を活用するという気概をぜひ持って欲しいと思います。
導入ブームの「1on1ミーティング」を再考する(第一話):導入検討編 はこちら
⇒ https://www.bizmentor.jp/blog/220913a
導入ブームの「1on1ミーティング」を再考する(第二弾):上司・管理職編 はこちら